2章30.終業式と始まったクリスマス・イブ
志乃と恋人同士のやり取りを繰り返し、学校生活も無難に過ごし、バイトもきっちりとこなして。
そうこうしている内に、12月23日――終業式が訪れた。
一学年に300人弱ほどが在籍しているので、体育館には900人以上もの生徒が集まっている。
普段からあまり他人には干渉しない方だからか、三代はあまり気にしたことが無かったが、こうして一斉に集まった光景を改めて見ると四桁近い学生数と言うのは中々に圧巻だった。
「――本校の生徒である自覚を持って――」
教頭だったか校長だったか忘れたが、とにかくそんな感じの人が壇上で喋っているのだが、いかんせん生徒たちに聞く耳は無い。
俯いて若干寝入っていたり、あるいは隣の生徒とひそひそ話をしている者ばかりである。
まぁ人が多いとこうなるものだ。
☆
「ねぇねぇ。明日……」
終業式も終わり、お互いのバイトが始まるまでの間のんびりお散歩デートを楽しんでいると、志乃が袖を引っ張りながらそう切り出した。
明日は24日であり、以前から志乃が「一日中二人きりでいようね」と念を押して来ていた日でもある。三代は頷く。
「分かってる」
24日は土曜日なので、本来であればそもそもバイトが無い。平日のみという条件だからだ。
しかし実は、冬休みに入るのであれば土日も――つまり、24日や25日にも出て来れないか、という話をされていた。
バイト代は貴重な交際費になるので、三代はその提案を了承はしている。だが、もちろん抜かりは無く、「25日は出れますが24日は出れません」とあくまで一部のみの了承であった。
彼女の存在を既に話していたこともあり、小牧も24日NGの理由を言わずとも察してくれたようで、項垂れながらも「分かったわ」と一言。
ちなみに、この話を聞きつけたはじめが頬を膨らませて「僕と彼女のどっちが大事なんだよぉ」と言って来たが……単なる冗談だろう。
☆
気が付けばいつもと変わらず過ぎ去った今日と言う日は、そして夜の10時を迎えて、二人はいつも通りに駅のホームでお別れのキスをした。
「それじゃあ明日な」
「うん! 始発で来るからね!」
「なら……俺も早起きして迎えに来ないとな」
「寝坊したら怒るよー」
「ちゃんと起きる」
何度聞いたかも分からないほどに耳にした発車音と共に、電車が遠ざかっていく。三代は急いでマンションに帰ると、そのまま風呂に入って念入りに体を洗い、
湯冷めしないうちにベッドに潜り込んだ。
深夜アニメを見る為にいつもは待機して起きているのだが、今日ばかりは諦めて早めに寝る。明日は寝坊が出来ないからだ。
☆
翌朝。
まだ太陽が顔を出していない頃に三代は目覚めた。
取り合えず、寝坊はせずに済んでいる。そのことに安堵しつつ、着替えを済ませてアウターを羽織り、足早に駅まで向かった。
駅のホームで待つこと数十分。始発の電車がやって来る。
「おはよー」
「おはよう」
朝はまだ早いと言うのに、志乃は元気いっぱいだ。今日という日を心待ちにしてくれていたのがそれだけで分かる。
「朝はやっぱり一番冷えるな」
「じゃあおてて繋ご。そうしたらあったかいよ?」
「……そうだな」
二人は手を繋ぐとゆっくりと歩きだした。
12月24日。クリスマスイブ。恋人たちが一斉に愛を囁く夜を抱える、年に一度の聖なる日が始まった。
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