2章28.ちょっとしたことで不安になってしまうのは好きだから
バイトのシフトの連絡が来たのは、志乃と一緒にお弁当を食べている時だった。
――時間は基本、求人票に書いてあった通りに平日の16時~20時まで。ただし、状況や本人の希望に応じて随時変更あり。
そんな文面が綴られている。
初出勤についても触れられており、オープン初日の12月1日が平日なのでその日からになります、との記載がある。
三代は返事を出す為にスマホをすっすと動かしていく。
承知いたしました、と返事を出した。
「……連絡? 誰から?」
「変な心配をしなくても、俺は志乃が思ってるようにモテたりはしない」
すらすらとそんな台詞を三代が出せたのは、以前にファッションを改造された時に、志乃が見せた反応を覚えていたからである。
大してカッコ良くなったわけでも無い自分に、志乃は他の女性の影がチラつく可能性を敏感に感じ取って嫌がった。
その時の経験があるから、志乃が今何を考えているのか察することが出来た。
「三代の魅力に気づく女の子は絶対にいるもん。……色々と冷静に見れる年上とか怪しいかも」
志乃のその言葉は的を射ており、つい最近、三代は25歳の小牧に唾をつけられそうになった。
良く勘付いたものだ。
心の底から好きだからこそ、自分の彼氏にどういう魅力があって、どういった女性に刺さるのかを適正に把握しているのかも知れない。
「俺のことを好きになってくれるのは志乃だけだ。俺には志乃しかいない」
小牧の一件については、三代は墓場まで持っていく秘密にすると決めている。
もう断った話だし、教えても単に志乃が嫌な気分になるだけなのが明白だからだ。
嫉妬させたいのであれば別だが、三代にその気は無い。
人を試すような行為が好きでは無いのだ。
「ほんとに……?」
「本当だ」
三代がにっこり笑うと、ようやくそこで志乃も落ち着いたようだ。
いつものように膝の上に座って来た。
「大丈夫なのは分かったけど……でも、あともうちょっとだけ安心したいから、ちゅーして」
それで志乃がもっと安心出来るのなら、と三代は志乃と唇を重ねた。
ここは人気が少ない屋上だ。
誰かに見られる心配もなく、安心してキスが出来る。
冬の風が僅かに吹いて頬を撫でた。
不思議と寒さは感じない。
キスをする時は、いつも心臓の鼓動が早まり体温が上がるからである。
☆
アルバイトの初日がやってきた。
12月1日だ。
三代は軽く伸びをしてリラックスしつつ、学校が終わり次第、水族館へと向かうことにした。
ところで……初出勤の前に、まず触れておく話題がある。
期末テストだ。
結果がこの日に返って来たのである。
志乃が全教科で赤点を回避し、順位も200位くらいまで上がっており、三代自身も目論見通りに1位から落ちて4位と言う結果だった。
「――四楓院くんおめでとう! 1位になりましたね!」
「あぁ! 悲願を達成したぞ!」
「約束通りにお祝いです! 実は準備していました!」
「それは大丈夫だと言ったハズだ……と言いたい所だが、もう準備されているとあっては、さすがに無碍には出来ないな。ありがたくお祝いを受けよう」
昇降口で、委員長と高砂が笑顔でそんな会話をしている所に出くわした。
1位の座を譲った成果が出ているようで、何よりである。
きちんと二人の関係が進むキッカケになってくれていたようだ。
志乃が赤点を回避し成績を上げ、委員長と高砂の二人も接近。
これは、当初に考えていた最善の結末である。
自分の考えた通りに物事が上手く進んだのがどうにも嬉しくて、三代は歩きながらニコニコと笑顔で口笛を吹いたのであった。
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