2章27.テスト当日
時間というものは瞬く間に過ぎるものである。
気が付けば試験の日が訪れた。
「それでは今から期末テストを始める。当然だが、カンニングの類は禁止だぞ。さぁ答案用紙と問題用紙を後ろに回せ」
前の席の生徒から用紙を受け取った三代は、後ろの席の志乃に渡そうとして――驚いてびくりとした。
想像以上に志乃がげっそりしていたからだ。
「だ、大丈夫か……?」
「大丈夫……今日明日のテストが終わるまでだから……」
なんだか心配になってくるが、最後のふんばり所として頑張って貰うしかない。
三代は志乃の頭を撫でてあげた。
すると、志乃はきゅぽんといつも通りに戻った。
☆
シャーペンや鉛筆が走る音と、時計の針が進む音だけが教室内に響く。
現代文が終わり、英語が終わる。
期末テストは何事もなく進んで行った。
テストの内容については、想像していた通りに、基礎基本を中心としたそこまで捻りは無い問題ばかりだ。
三代自身にとっては、全教科満点を狙える程度の難易度。
しかし、三代はわざと何問か間違えたりあるいは空欄のままにした。
理由はある。
以前に横耳に聞いた委員長と高砂の話と、その時に自分が何を思ったのかをきちんと覚えていたからだ。
(……今回の学年1位は譲ろう。それで二人の仲が進む可能性があるのなら)
☆
二日目も順調に過ぎ、期末テストは何事も無く終わった。
「終わったー」
志乃はマンションのソファにうつ伏せに倒れる。
頭から煙が出ているように見えるのは、普段はほとんどしない勉強漬けの10日間を過ごしたからだろう。
志乃は良く頑張っていた。
一生懸命にテスト勉強に励んでいた。
「お疲れさん。どうなるか分からないが……やるだけやったんだ。あとはなるようにしかならない。まぁ結果はどうあれ、頑張ったんだから約束通りに冬休みにご褒美の温泉だな」
「楽しみ~」
クッションに顔を埋め、志乃はニコニコと足をバタつかせた。
本当に楽しみにしているようだ。
しかしながら……温泉と一言で表してもその種類は様々だ。志乃はどういった温泉が良いのだろうか?
少し考えてみたものの、見当がつかなかった。
仕方が無いので本人に直接聞くことに。
「……志乃はどういう温泉がいいんだ? 色々あるみたいだが」
パソコンの電源を入れ、ネットで検索を掛けて温泉情報を表示すると、三代の肩に志乃が顎を乗せて来た。
「とりま……硫黄とかはパスかな」
「匂いキツそうだからか?」
「うん」
「じゃあ……これとかどうだ? 炭酸水素塩泉。美肌効果ありだってさ」
「それ! それがいい! やっぱり温泉って言ったらそういうのだよー」
あっさりと行く温泉の種類が決まった。
変に自分の頭だけを捻って考えるよりも、相談しながら進めた方が簡単に決まるようだ。
「分かったこの温泉だな。……ただ、注意点もあるみたいだ。炭酸水素塩泉は風呂上がりに冷えやすくなるみたいで、乾燥防止でスキンケアした方がいいとも書いてある。……温泉は行くにしても一カ月は先の事だから、それまでの間に買っていた方が良いんじゃないか?」
「だいじょぶ。スキンケア用品は常に持ってるから」
志乃は「むふふ」とドヤ顔でVサインを作った。
女の子という生き物は、常に準備を万端にしているものらしい。
確かに、街中でも学校でも鞄を大事に持つ女の子をよく見る。
それはきっと、ポーチやら何やらを詰め込んでいるからなのだ。
女の子としての嗜み、というヤツなのだろう。
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