2章26.だから勉強頑張ろうな

 期末テストまでそう時間があるわけではない。

 具体的にはあと10日だ。


「志乃、前回の期末テストの成績はどのくらいだ?」

「えっと……2学年302人中270位」

「なるほど。……その順位ってことは、恐らくだが幾つか赤点取ってる教科あるな?」

「す、数学と英語が苦手で赤点を……そ、そのほかはギリギリ赤点回避出来るぐらいは点取れると思うけど……」


 意外と対処がしやすい教科であることに、三代は安堵する。

 数学教諭も英語教諭も、センター試験を念頭に置いたような基礎基本を大事にする人であった。

 そこまで捻った問題は出してこないのだ。


「満点を取れるようにするのはさすがに時間的に無理だが……赤点回避はなんとかいけるな」

「ほんとに……?」

「本当」

「ありがとぉ~」


 志乃に抱き着かれたので、取り合えず、ぎゅっと抱きしめ返してあげた。

 まぁ何はともあれ。

 テストまでそう日が無いので、今まではまったりと二人で過ごしていた時間は、しばしの間だけ勉強一色へと変わった。





 三代はまず、志乃に勉強方法を提示した。

 内容はとてもシンプルだ。

 出題範囲の中でなるべく簡単に解ける箇所を、何度も何度も繰り返し解く。

 ただそれだけである。


 捻った問題が出ないことが予想されるからこそ、時間が無くてもこのやり方で赤点はどうにか回避出来る。

 現状でもっとも効率的な方法だった。


「今回の範囲は微分積分だが、積分を捨てて微分だけ集中してやる。微分は機械的な計算で答えが出る。理解せずとも慣れれば高校数学なら点を取れる」

「う、うん」


「英語はリスニングを捨てる。今から耳を慣れさせるのは不可能だ。代わりに長文読解に全てを注ぐ。安心しろ。文章が多くて惑わされそうになるが、答えは問題文に既に書いてあったりする。そういう意味では一番楽なのが英語だ。慣れてしまえばなんとでもなる」

「り、りょ」


「勿論他の教科もおそろかにはさせない。だが……他はほとんど暗記みたいなものだ。隙間時間を使って覚えればいい」

「あ、あい……」


 志乃が泣きそうな顔をしていた。

 まだ始まってもいなのに諦めムードが漂い始める。

 このままでは駄目だ。

 志乃のモチベーションを維持させる為に、何か良い方法が無いか、と三代は考え始める。

 そして、


「――志乃、どこか行きたい所あるか?」


 と、訊いた。


「え……?」

「冬休みになったら連れて行くぞ? 勉強を頑張るご褒美だな」

「本当に……?」

「あぁ本当だ。その頃にはバイト代も入るからな」


 バイト代は15日締めの当月26日払いであり、冬休み中の交際費のアテに出来る支払い日だった。


「えっと……それじゃあ温泉行きたいな」

「分かった連れて行く。だから勉強頑張ろうな」

「うん!」


 わりかし簡単にやる気を出してくれた。

 志乃は素直で、意外とあっさり誘導に引っかかってくれる。

 そういうところが地味に可愛い。

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