2章26.だから勉強頑張ろうな
期末テストまでそう時間があるわけではない。
具体的にはあと10日だ。
「志乃、前回の期末テストの成績はどのくらいだ?」
「えっと……2学年302人中270位」
「なるほど。……その順位ってことは、恐らくだが幾つか赤点取ってる教科あるな?」
「す、数学と英語が苦手で赤点を……そ、そのほかはギリギリ赤点回避出来るぐらいは点取れると思うけど……」
意外と対処がしやすい教科であることに、三代は安堵する。
数学教諭も英語教諭も、センター試験を念頭に置いたような基礎基本を大事にする人であった。
そこまで捻った問題は出してこないのだ。
「満点を取れるようにするのはさすがに時間的に無理だが……赤点回避はなんとかいけるな」
「ほんとに……?」
「本当」
「ありがとぉ~」
志乃に抱き着かれたので、取り合えず、ぎゅっと抱きしめ返してあげた。
まぁ何はともあれ。
テストまでそう日が無いので、今まではまったりと二人で過ごしていた時間は、しばしの間だけ勉強一色へと変わった。
☆
三代はまず、志乃に勉強方法を提示した。
内容はとてもシンプルだ。
出題範囲の中でなるべく簡単に解ける箇所を、何度も何度も繰り返し解く。
ただそれだけである。
捻った問題が出ないことが予想されるからこそ、時間が無くてもこのやり方で赤点はどうにか回避出来る。
現状でもっとも効率的な方法だった。
「今回の範囲は微分積分だが、積分を捨てて微分だけ集中してやる。微分は機械的な計算で答えが出る。理解せずとも慣れれば高校数学なら点を取れる」
「う、うん」
「英語はリスニングを捨てる。今から耳を慣れさせるのは不可能だ。代わりに長文読解に全てを注ぐ。安心しろ。文章が多くて惑わされそうになるが、答えは問題文に既に書いてあったりする。そういう意味では一番楽なのが英語だ。慣れてしまえばなんとでもなる」
「り、りょ」
「勿論他の教科もおそろかにはさせない。だが……他はほとんど暗記みたいなものだ。隙間時間を使って覚えればいい」
「あ、あい……」
志乃が泣きそうな顔をしていた。
まだ始まってもいなのに諦めムードが漂い始める。
このままでは駄目だ。
志乃のモチベーションを維持させる為に、何か良い方法が無いか、と三代は考え始める。
そして、
「――志乃、どこか行きたい所あるか?」
と、訊いた。
「え……?」
「冬休みになったら連れて行くぞ? 勉強を頑張るご褒美だな」
「本当に……?」
「あぁ本当だ。その頃にはバイト代も入るからな」
バイト代は15日締めの当月26日払いであり、冬休み中の交際費のアテに出来る支払い日だった。
「えっと……それじゃあ温泉行きたいな」
「分かった連れて行く。だから勉強頑張ろうな」
「うん!」
わりかし簡単にやる気を出してくれた。
志乃は素直で、意外とあっさり誘導に引っかかってくれる。
そういうところが地味に可愛い。
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