2章25.優しいからね
(……プレゼントはもうなるようにしかならない)
なんとか自らをそう納得させた三代は、はじめと別れると、駆け足で志乃の迎えに行った。
今日の志乃のバイトは18時半までだ。
水族館から志乃の勤める喫茶店までは、歩いて30分ほどかかるので、少しペースを速めないと間に合わないかも知れない。
走りながらに吐いた息が白かった。
もう12月が目と鼻の先なこともあって、気候がほぼ完全に冬になっている。
肌寒さも当然に感じたが、走ったお陰で体が温まり、そのうち気にならなくなった。
「おっ……志乃ぴっぴの彼氏くんご来店ー」
「どうもです」
「ささこちらに」
時間内にカフェに着き、案内される席に座る。
続いて彼氏特典の紅茶が差し出されたので、それを口に含むと ほのかな香りとほど良い熱さが体の内側に染みた。
「ふぅ……」
一息を吐いてから、三代は何の気なしに窓の外を眺める。
街行く人々の装いが目に入って来た。
多くの人が冬の訪れに合わせた格好をしており、寒さ対策をしているのが分かる。
そういえば、防寒として志乃も黒のタイツを履くようになった。
妙な色気が増している。
なんだか脚を触りたくなる衝動に駆られる時もあるが、それは変態っぽいので、三代はしっかり気持ちを抑えている。
「やっほー」
三代が紅茶を綺麗に飲み干すと、着替え終わった志乃が出てきた。
「帰るか」
「うん!」
手を繋いで店の外へと出る。
寒さをしのぐ為にも、いつも以上に三代は志乃とぴったりとくっついた。
それから、歩きながら三代は志乃をちょくちょく横目に見た。
なるようにしかならない、と三代は自らを納得させていたが、それでも、クリスマスプレゼントを渡した時にどういう反応をされるか気になったからだ。
すると、志乃が視線に気づいた。
志乃は慌てて鞄の中からマフラーを取り出すと、半分を自分の首に巻き、それからもう半分を三代の首に巻いた。
どうやら、『何か温まりそうなものを持っていないかな?』と三代が思っていると勘違いしたらしい。
「寒いんでしょ? でも大丈夫だよ。これなら寒くないしー」
笑顔の志乃にそう言われ、三代はなんだか毒気を抜かれたような気分になる。
そして、自分は考え過ぎていたと気付いた。
プレゼントを喜んでくれるかは分からないが、こうして何かと気遣ってくれるくらいに志乃は優しい子だから、少なくとも怒ったりしないのだけは確かだ。
それが分かって三代は安心した。
次の機会に気をつければ、それで良いのだ。
☆
「あっ――」
――と、志乃が素っ頓狂な声を上げたのは、三代の膝の上に乗って一緒にゲームをしている時のことだ。
「どうした志乃」
「そういえば、そろそろ期末テスト……」
「あー……確かにあるな。もうすぐだ」
「三代なんか余裕ある感じ……?」
「高校の範囲は一年の時に全部頭の中に入れているしなぁ……。今やってる勉強は大学受験用」
「……本当に? ……まだあたしたち高二だよ?」
「ぼっちを舐めたら駄目だぞ。志乃と付き合う前は勉強しかやる事が無かったんだからな」
「す、凄い。ねぇ勉強おしえて……?」
志乃は瞳を潤ませながら、切実そうな表情になっていた。
勉強が追い付いていないようだ。
頻繁にバイトを入れていることもあって、勉学の方に些かの支障が出てしまっているらしい。
三代にとって勉強は得意分野でもあるし、なによりここは彼氏としての腕の見せ所ではないだろうか?
そんなわけで三代は力強く頷いた。
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