2章19.思い出に残る学祭
「待て藤原。その看板はなんだ……?」
委員長から渡された看板を手に、三代が宣伝の為に仕方なく付近を練り歩いていると、担任の中岡に見つかってしまった。
看板に書かれている内容が内容なので、ぎくり、と三代は固まる。
「可愛い女の子がキワドイ格好でにゃんにゃんだと……? 私は喫茶店をやると聞いて許可を出した覚えはあるが、こんな夜の店みたいなものをやって良いと言った記憶は無い」
「いや、まぁ、その……」
「一体どうなっている? おん? まさかと思うがお前が首謀者か?」
「俺はこれを持って宣伝しろって言われただけで……というか、ぼっちの俺が首謀者になれるわけがないですよ」
「……それもそうか。にしても、こうなってくると事情が変わって来るな」
中岡は顎に手を当てると「……ふむ」と息を吐いた。
眉間に皺が寄っている。
「……仕方あるまい。うちのクラスは出し物中止だな」
やっぱりそうなるか――というのが素直な感想である。
高校生が妖しいお店の真似事をやっているのだから、中岡が教育者として看過できないのは当たり前だ。
三代が空を仰ぐとまだ日が高かった。
丁度昼時くらいだろうか?
つまり、学祭が始まってまだ半日も経っていない。
本来であれば、お楽しみはこれからのハズだ。
しかし、三代のクラスの学祭は、早くも終わりを迎えることになってしまった。
☆
「別に肉体的な接触があったわけではありません!」
「少しえっちな格好しただけだしねぇ……?」
「ちょっと恥ずかしかったけどチップくれた人もいたし……」
「変わった格好で喫茶店やっただけじゃないですか! これをエロいと思う人の心の方がエロいんですよ!」
「言い訳はいらん。……お前たちはまだ高校生なんだ。彼氏彼女でいちゃつく分には構わんし、その場合はむしろ青春としてドンドン仲を深めて行くとこまで行けと私は考えているが……こういった商売として女を売るような真似事だけ別だ。許さん。……あと、私にウソをついていたというのが気に入らない」
――中止――そう書かれた張り紙が扉に張られた教室の中で、クラスメイトたちと中岡とで色々と言い合いが始まっていた。
まだまだ学祭は続くと言うのに、もう終わりだと冷や水をぶっかけられたことに納得が行かず、食ってかかる生徒たちも多いようだ。
「この服も回収していくからな。全くなんだこのガーターベルトやらバニーガールやら……どこから集めて来たんだか」
接客に使われていた衣類の数々を段ボールにぐいぐいと押し込むと、中岡はそれを担ぎ、
「ハイ解散! あとの学祭は客として他のクラスの出し物でも楽しめ!」
バン! と勢いよく扉を閉めて去って行った。
教室内に残された生徒たちの間に、重苦しい空気が流れ始める。
中止は覆さないと明確に示されてしまったからだ。
だが、時間が経つにつれ、再開は無理だという現実に向き合い始める者が一人また一人と増え、徐々に姿を消し始める。
「……すぐ終わっちゃったね」
「……先生に言われた通り、大人しく他がやっている出し物でも見に行くか?」
「うん」
三代と志乃も周囲の空気に合わせて廊下に出て、別のクラスの出し物を楽しむ方向に切り替えることにした。
元々そんなに強い参加意欲があったわけでもない。
なので、中止を残念と思うことも無く気楽なものだった。
「――うおおおおお! 折角みんなで協力して思い出に残る学祭になるハズだったのにぃいいいい!」
ふと、教室の中から委員長の悲痛な叫び声が聞こえた。
学祭に一生懸命に励む姿勢が目立っていたこともあってか、委員長には中止が堪えたらしい。
なんだか少し可哀想な気がしないでも無かった。
しかし、心配そうな表情で教室の中に戻った高砂を見て、余計な気を使う必要は無さそうだなと三代は思った。
ところで――委員長の望みである思い出に残る学祭というのは、ある意味でそれは叶っていたりする。
いかがわしい店で中止というのは、実は前代未聞の出来事であったので、そういう意味では思い出に残る学祭になったと言えた。
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