2章17.笑顔が好き
「それでは、以上を持ちまして面接を終了します。合否については二人とも採用です。……本当は選考して後ほどって言いたいけれど、清掃ってあんまり人気なくて選考するほど応募も来ないから」
なんやかんやと面接が終わり、二人揃って採用となった。
落ちたらどうしよう、と三代は地味に思っていたので一安心であった。
「作業手順の確認等の研修もやるんだけど……日時の連絡は追ってするわ。あと、最後になったけれど、私の自己紹介をしておかないとね。私は小牧美佳。一応ここの副館長予定」
面接官の女性――小牧は簡単に自己紹介をすると、ぱんぱんと手を叩いて「あとは帰って良し」と言った。
今すぐに聞きたいことがあるわけでもないので、三代は帰り支度を始める。
すると、はじめがくいくいと袖を引っ張って来た。
「藤原くん藤原くん」
「どうした?」
「僕たちどっちも受かったから仲間だね」
「そう……なるな」
「お互い困ったことがあったり、相談したいこととかこの先出て来ると思うんだ。だから……その……」
はじめはスマホを取り出すとぎゅっと握った。
「連絡先……教えて欲しいな。……駄目、かな? 仕事仲間なら知ってないとおかしいし」
唐突な提案ではあったものの、はじめの言っていることにも一理はあると三代は思った。
「それもそうだな」
「……ありがとう! 嬉しいな。えへへ」
何度も繰り返すようにはなってしまうが、本当にはじめは男なのだろうか?
その疑念を三代はどうにも拭いきれなかった。
だが、面接官の小牧が、履歴書を見たうえではじめを男だと断定していたのだ。
きっと本当に男なのだろう。
世の中にはこういう男もいるんだな、と三代はしみじみ思うのであった。
☆
「と、いう感じだったわけだが……」
夜になり、三代は志乃とのひと時を過ごしながら、今日バイトの面接に行ってきた事やそこでの流れを説明した。
「女の子にしか見えない男の子……? そういう人っているんだね」
「俺もビックリした」
「でも男の子なら安心ー。三代が取られないし」
はじめのチャイナドレス姿を想像してしまったことについては、言わないことにした。
微妙に変態っぽさを感じてはいたので、言いたくなかったのである。
「でも三代がバイトかぁ。会う時間とか減っちゃうのかな? 迎えとかも厳しくなる……?」
少し寂しそうに志乃は口を尖らせる。
逢瀬の時間が減ることを危惧しているようだ。
だが、それは杞憂だ。
「いや、それは大丈夫だな。平日の16時から20時までと求人票に書いてあった。志乃のバイトが終わるより先に終わる」
バイト探しの時に、最低条件として、『志乃とすれ違うようなシフトにはならない場所』というのを三代は念頭に置いていた。
抜かりは無いのだ。
「良かったー!」
志乃が嬉しそうに笑った。
明るい向日葵のようなこの笑顔を見ると、なんだか幸せな気分になってくる。
だから、三代は志乃の笑顔が好きだったりする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます