2章17.笑顔が好き

「それでは、以上を持ちまして面接を終了します。合否については二人とも採用です。……本当は選考して後ほどって言いたいけれど、清掃ってあんまり人気なくて選考するほど応募も来ないから」


 なんやかんやと面接が終わり、二人揃って採用となった。

 落ちたらどうしよう、と三代は地味に思っていたので一安心であった。


「作業手順の確認等の研修もやるんだけど……日時の連絡は追ってするわ。あと、最後になったけれど、私の自己紹介をしておかないとね。私は小牧美佳。一応ここの副館長予定」


 面接官の女性――小牧は簡単に自己紹介をすると、ぱんぱんと手を叩いて「あとは帰って良し」と言った。

 今すぐに聞きたいことがあるわけでもないので、三代は帰り支度を始める。

 すると、はじめがくいくいと袖を引っ張って来た。


「藤原くん藤原くん」

「どうした?」

「僕たちどっちも受かったから仲間だね」

「そう……なるな」

「お互い困ったことがあったり、相談したいこととかこの先出て来ると思うんだ。だから……その……」


 はじめはスマホを取り出すとぎゅっと握った。


「連絡先……教えて欲しいな。……駄目、かな? 仕事仲間なら知ってないとおかしいし」


 唐突な提案ではあったものの、はじめの言っていることにも一理はあると三代は思った。


「それもそうだな」

「……ありがとう! 嬉しいな。えへへ」


 何度も繰り返すようにはなってしまうが、本当にはじめは男なのだろうか?

 その疑念を三代はどうにも拭いきれなかった。


 だが、面接官の小牧が、履歴書を見たうえではじめを男だと断定していたのだ。

 きっと本当に男なのだろう。


 世の中にはこういう男もいるんだな、と三代はしみじみ思うのであった。





「と、いう感じだったわけだが……」


 夜になり、三代は志乃とのひと時を過ごしながら、今日バイトの面接に行ってきた事やそこでの流れを説明した。


「女の子にしか見えない男の子……? そういう人っているんだね」

「俺もビックリした」

「でも男の子なら安心ー。三代が取られないし」


 はじめのチャイナドレス姿を想像してしまったことについては、言わないことにした。

 微妙に変態っぽさを感じてはいたので、言いたくなかったのである。


「でも三代がバイトかぁ。会う時間とか減っちゃうのかな? 迎えとかも厳しくなる……?」


 少し寂しそうに志乃は口を尖らせる。

 逢瀬の時間が減ることを危惧しているようだ。

 だが、それは杞憂だ。


「いや、それは大丈夫だな。平日の16時から20時までと求人票に書いてあった。志乃のバイトが終わるより先に終わる」


 バイト探しの時に、最低条件として、『志乃とすれ違うようなシフトにはならない場所』というのを三代は念頭に置いていた。

 抜かりは無いのだ。


「良かったー!」


 志乃が嬉しそうに笑った。

 明るい向日葵のようなこの笑顔を見ると、なんだか幸せな気分になってくる。

 だから、三代は志乃の笑顔が好きだったりする。

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