2章16.男の娘feat.チャイナドレス
女だと思っていたら男だった――こういう時、どう反応をすれば良いのかが三代には分からない。
リア充のコミュ力おばけならば、あるいは瞬時に正しい答えに辿り着くのかも知れないが、つい最近までぼっちだったのが三代である。
ただ戸惑うしか出来なかった。
「藤原くん、急にそっぽ向いてどうしたの?」
「い、いやなんでもない……」
どうにか頭を捻って出した結論はスルーだった。
「……変な藤原くん?」
こてん、とはじめは小首を傾げる。
本人に自覚があるのかは分からないが、そのあざとい仕草は妙に可愛かった。
☆
バイトの面接官がやってきたのは、三代とはじめが出会ってから、更に10分ほどが経過した頃だ。
「ごめんなさい。待たせてしまったわね」
そう言って現れた女性の面接官は、格好が少し変だった。
なぜかラバースーツを着用している。
三代が訝しげな視線を送ると、面接官の女性はすぐにそれに気づいた。
「……この格好は、イルカの調教を先ほどまでやっていて、だからなの」
小さな水族館というくらいだから、大型の生き物は扱わないのだろうと三代は思っていた。
だが、イルカがいるらしい。
「いくら小さな水族館と銘打っていたとしても、何か目玉が無いとお客さんも来ないでしょう? だから、毎日ではないけど、イルカショーをやるっていうことになって」
求人票にはきちんと目を通したつもりであったが、イルカショーをやる等と言う文言は一切無かった。
しかし――三代が応募したのはあくまで清掃だ。
どのような生き物がいようとも、それは仕事内容には関係が薄いので、募集する側も恐らく必要が無いとして書かなかったのだろう。
「それじゃ面接を始めます、と。……まず履歴書を見せて欲しいな」
言われて、三代は脇に抱えていた封筒を手渡した。
隣のはじめも履歴書をきちんと持って来ていたようで、差し出していた。
面接官の女性は履歴書を見比べると、
「どっちも高校生なんだ? まぁそんな感じの見た目だけど。……それで、部署の希望はどっちも確か清掃だったかな。藤原くんは雰囲気的になんか分かるけど、佐伯くんは女の子みたいに可愛い容姿しているのに勿体ない」
遠まわしに『君は地味だから』とディスられている気がしたが、それはひとまず横に置くとして。
どうやら、はじめも同じ清掃希望だったらしい。
意外である。
男なのに女の子にしか見えないその容姿を鑑みれば、人前に出るような部署に応募していてもおかしくはないのだが……。
三代は横目にはじめの様子を窺う。
すると、なぜか顔を真っ赤にして俯いている所だった。
「あの、その、前のバイト先で僕無理やり変な格好させられて……それがすごく恥ずかしくて。……女の子用のチャイナドレスを着て接客やらされて、変な目で見て来るお客さんとかもいて……」
人前に出ない清掃を選んだのには、それ相応の理由があったようだ。
辛い思いをしたのだろう。
はじめは今にも泣きそうな顔になっていた。
「そ、そうなのね。何か悪いこと聞いちゃったかな。……ごめんなさい」
「いえ、僕の心が弱いのが悪いんです」
失礼だとは思いつつも、三代は一瞬だけ、チャイナドレス姿のはじめを想像してしまった。
普通に可愛い感じになるな――と思ったのだが、その時、突如として脳内に志乃が現れた。
ハムスターのように頬を膨らませた志乃が、両手をぶんぶんと振って、三代の妄想を消しに来たのだ。
(邪な気持ちで想像したわけではないんだ。すまない志乃……)
実際に見つかったわけではないのだが、三代はつい心の中で謝罪してしまった。
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