2章15.面接と男の娘

 学祭を翌日に控えた金曜日の放課後のこと。

 かねてよりアルバイトを探していた三代は、志乃を見送ってから自宅へと帰ると、次の求人へ面接の連絡を入れることにした。


 ――12月1日に新規オープン予定のミニ水族館の清掃スタッフ募集中!


 これに応募しようと思ったのには、当然だが理由がある。

 適当に選んだわけではない。


 一つ目の理由は、”新規オープン”だという点である。

 これは、人間関係が構築されていないことを示している。

 全員が初対面でイチからのスタートであり、それが三代には大きなメリットに思えたのだ。


 今までぼっちであったこともあり、三代のコミュ力はそこまで高くない。

 その自覚もある。

 だから、人間関係の輪が出来上がっている職場は避けたかったのだ。

 新規オープンは渡りに船の条件である。


 二つ目の理由は、”清掃スタッフ”という点である。

 イザとなれば最低限の会話のみで済み、黙々と仕事を進めることが出来る”清掃”という職種は自分に向いていると考えた。


 こうした色々な理由を加味したうえで、三代は応募を決めた。





 連絡を取って見ると、「お時間があれば今から面接に来て下さい」と伝えられたので、三代は準備を整えて指定された場所へと向かった。


 着いてみると、そこはオープン予定の施設その場所であった。

 建物全体にはシートが被せられており、工事がまだ完全に終わっていないのが分かる。


 入口に『面接の方はこちらへ』と矢印が書かれてあったので、ひとまず表示の通りに進んで行く。

 すると、面接会場と紙が貼ってある部屋の前に辿り着いた。


 部屋の前には幾つも椅子が並べられていたが、人の気配は無くガランとしている。他の面接者は誰もいないらしい。


 とりあえず、面接に来たことを伝える為に扉をノックしてみた。

 だが、反応が無かった。


「……面接官がいないのか。まぁ、『今から来て下さい』と言ったのは向こうだ。俺が来ることを知っているんだから、待っていればそのうち来る」


 三代は扉の前にある椅子に座ると、しばし待つことにした。

 20分ほどが経過する。

 そして、三代と同じくらいの歳の女の子が一人やって来た。


 細い体型と手足にぴたりと合うような長袖に、スキニーのジーンズ。髪型はショートカットで、ボーイッシュな感じの子である。


 女の子は周りをきょろきょろと見ていた。

 どうやら、面接官ではなく、三代と同じで面接を受けに来た子のようだ。


「えっと……あの……どうも」


 女の子は三代に気づくと、なんともハスキーで中性的な声で挨拶をして、おずおずと会釈した。

 釣られて三代も会釈を返した。


「こちらこそどうも。……あの、見た感じ、面接を受けに来たんですよね? 実は俺もなんですが、まだ面接官が来てないようで、ここで座って待ってるんです」

「そ、そうなんですね。僕も面接で……その、隣に座っても?」


 ボーイッシュな見た目に合わせているのか、一人称で”僕”を使っているようだ。

 リアル僕っ子など三代は初めて見た。

 本当にいるんだな、とUMAにでも合ったような不思議な気分になる。


「僕……佐伯はじめって言います。高二です」

「奇遇ですね。俺も高二ですよ。藤原三代です」

「高二? 本当に? 同学年って嬉しいなぁ――って、あっ、ご、ごめんなさいため口を聞いてしまって……」

「別に気にしてないというか……同学年ならお互いため口でも別に」

「う、うん! よろしくね藤原くん」


 はじめは屈託も無く嬉しそうに笑った。

 そして、こう続けた。


「でも良かった。一番最初に会った人が同性で。僕は異性が苦手で……」

「……へ? いまなんて?」

「え? その、えっと、一番最初に会ったのが同性で良かったなって」


 三代は顔を思い切り背けると、手で口を押さえて目を大きく見開く。

 まさか男だなんて思ってもいなかった。

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