2章11.学祭を忘れているのではないか

 楽しみなクリスマスを来月に控え、11月はとりとめも無く進んで行く。

 その中で、学校生活にも変化が訪れ始めた。

 三代と志乃の二人は、お互いの関係を更に周知させる為にも、校内でも普段通りに接するようにしたのだ。

 すると、当然に反響が起きる。


 志乃の友達たちから流れた話を聞いていた生徒たちは、「本当だったとは……」と言い出したし、まるで気づいていなかった一部の者は「うそぉおおおお!」と驚いた。


「はい、今日のおべんと」

「ありがとうな」


 三代と志乃は、昼食も一緒に取るようになった。

 今までは別々に済ませていたが、もうその必要も無くなったからだ。

 志乃がお弁当を作って来てくれることになったのである。


「今日は桜でんぶでハートを作ってみたよー」

「おお」

「ちなみに、あたしの気持ちを表現しようとして、それで作ってて実はハートがはみだしそうになっちゃって……。容器になんか収まりきらないくらい”好き”が大きいから……」

「はみ出しても全て受け止めるぞ」


 二人の醸し出す甘い空気感に、周囲の生徒たちは一斉に俯く。

 見ている方が恥ずかしいこのやり取りに女子生徒が耐え、男子生徒は悔しさに零れる涙を抑えている。


 ちなみに。

 こうして完全に校内に広まった美少女ギャルとぼっちの恋人関係は、後に学校七不思議の一つとして、後世にも受け継がれることになるのだが……それはまた別の話である。





 まぁ何はともあれ。

 今日もつつがなく終わり、三代と志乃は二人揃って教室から出ようとした。

 その時だ。

 七三分けの眼鏡の男子生徒が両手を広げて立ちはだかった。

 確かクラス委員長を務めている人物である。


「待ちたまえ! 君たちの仲はボクとて知る所になっている。付き合っているのだろう? 恋人同士なのだろう? そんな二人の邪魔しようとは思っていない。だが――君たちは浮かれて大切なことを忘れている。周りを見たまえ!」


 周りを見ろと言われたので、二人揃って右に左に周囲を見た。

 看板を作っていたり、飾りつけを作っていたりする生徒たちが沢山いた。


「――分かっただろう! 学祭だよ! 君たちまるで参加しようとしないな! 一週間後なのだぞ!」


 そう言われて、三代と志乃の二人も状況に気づいた。そして、お互いに汗を浮かべながら不参加の理由を述べる。


「あ、あたしはバイト忙しくて参加する余裕ないっていうか。今日もバイトあるし?」

「俺は基本的に暗い感じのぼっち……つまり陰キャ? な感じだから、そもそも学祭はスルーするイベントだと認識していた」


 二人のこの返答を聞いた委員長は、握りこぶしを作ってぷるぷると震えた。


「藤原くんの理由はちょっと文句を言いたい所があるが……あえて呑み込もう。君たちにも事情があるのは分かったが……しかし、それでも出来る範囲で良いから参加はして頂きたい。君たちはまるで話を聞いていないから、クラスの出し物すら知らないだろうが、喫茶店をやることになっている」


 そう言って委員長は床に膝をつくと、流れるように土下座を行った。


「強制ではないし、ひとまず今日の所は帰って貰って構わない。明日以降の時間がある日で構わない。……まぁその、確かに二人くらいいなくても滞りなく学祭は進むだろう。だが、それだと皆で頑張ったという思い出にならないじゃないか。クラス委員長としてそれは見過ごせない」


 三代と志乃は一度顔を見合わせる。

 土下座をされたうえに、クラスの皆で頑張った思い出という大義名分を掲げられたとなると、さすがにスルーするのは悪い気がしてくる。


「頼もう!」


 最後の一押しとばかりに叫ぶ委員長を見て、「仕方ない」と項垂れるようにして二人とも頷いた。

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