2章08.そんなに大きかったのか

「な、何かお探しでしょうか……?」


 頬を引き攣らせた女性店員に話しかけられた。

 どう切り出すべきか?

 三代は迷いつつ、女性店員の表情に釣られるようにして眉をひくつかせる。

 数秒ほど気まずい時間が経過したのち、


「したぎ買いにきたです。このおにいちゃんはおねえちゃんの彼氏で、プレゼントです」


 美希が出してくれた助け船のお陰で、女性店員が「なるほど」と納得して表情を少し和らげた。

 プレゼントなら驚くことでは無い、という反応だ。


「……彼女へのプレゼントで買いに来る男の人って、案外いるんですか?」

「それはハイ。案外います」

「なら良かったです。ただ、それにしては、何かこう最初に引かれていたような雰囲気を感じたのですが……?」


「えっとその……プレゼント用として下着をお買い求めになられる男性は、大体は贈る相手である彼女さんご本人さまと来ます。ご本人さま以外と来られる方もいるにはいますが……こんなに小さい子と一緒、と言うのはあまり見ない光景ですから」


 女性店員はオブラートに包んでくれているが、つまり、『男性が幼女と一緒にランジェリーショップに入店して来たら、普通は怪しいと思うでしょう』と言っている。


 客観的にはまったくもってその通りであり、反論のしようもない。


「ま、まぁその、何かお困りのことがあれば、お申しつけ下さい。……彼女さんのサイズとか体型とか分かりますか?」


 下着のサイズを問われて、三代は慌てて美希を見た。

 美希はオーバーオールの前ポケットから手帳を取り出し、ぺらぺらと中をめくって店員に見せた。

 志乃の体型や各種サイズが手帳に書いてあるらしい。


「……なるほど。スタイルが良い方なんですね。これだとフィッティング無しでも大丈夫かな?」

「おねえちゃん、ちょっと派手めの色と肌ざわりがいい生地が好きなのです。デザインはえっちぃのがいいかもです」

「派手……肌触り……えっちぃ……うーん。では、あちらのコーナーが良いかも知れませんね」

「わかりましたです」


 話が何とか進んだようで、美希が移動を始めた。

 三代もその後をついていく。

 すると、大人びた下着ばかりがある一角に着いた。

 紫や赤やピンク色の透けているものが沢山あり、思わず三代は顔を赤くして瞼を閉じる。


「おにいちゃん、目つむってたら選べないよ」

「み、美希ちゃんに選んで貰おうかな……」

「美希はアドバイスまでは出来るけど、最後に選ぶのはおにいちゃんじゃなきゃ駄目なんだよ? おにいちゃんが選ぶから意味があるんだよ?」


 それはそうかも知れないが……。


「とりあえず……美希的におねえちゃんが喜びそうだと思うのは、こういうのかな?」


 かちゃかちゃとハンガーの擦れる音に、三代が薄っすらと瞼を持ち上げると、美希が手にした下着が見えた。

 ギャザーレースのついた濃い桜色の透け透けの上下セットだ。なんというかその、エロ可愛いとかそういう系統の下着である。


「これは……」

「おねえちゃんこういうの好きだよ?」

「そ、そうなの?」

「そうだよ。サイズもF65でまちがいないし」

「……F?」

「あれ、おにいちゃん知らなかったの? おねえちゃん脱ぐとそこそこ巨乳だよ」


 美希が言うには、志乃は隠れ巨乳のFカップらしい。

 三代は『そんなまさか』と一瞬思ったものの、よくよく振り返ってみるとありえなくはないことに気づいた。


 以前に志乃と美希が喧嘩しかけた時に、ブラジャーに小玉メロンを乗せて云々と言う会話があった。

 抱きつかれてたまたま触れた時の胸の感触も、思い返してみると、柔らかさを確かに感じるほどに豊かだった。


 一つ一つの事実を紡ぎ合わせて行くと、志乃が巨乳であるということが浮き彫りになってくる。

 好きになったのがあくまで志乃の内面であって、体目当てでは無かったから今までスルーしていたが……。


 だがしかし、そうは言っても三代も健全な男の子であるから、女の子の体に興味や欲望は当然に抱く。

 それが彼女のものともなれば、なおさらである。


 だから、志乃が隠れ巨乳ということを知って、思わず脳内で想像してしまった。

 魅力的な体つきの志乃が、美希が手にしている色っぽい下着だけをつけたまま、自分に抱き着くところを思い浮かべてしまったのだ。


 ぽよん……とたわわな胸が揺れる幻聴が聞こえて来た。

 情けなくも鼻の下も若干伸びている。


(お、俺は何を考えているんだ……)


 三代は息を荒げながらも、首を横に振って邪念を掻き消していく。

 あくまで喜んで貰うプレゼントを買いに来たのであって、自らの欲望を満たす為ではないのだぞ、と。


 こういう所は真面目なのが三代だ。

 さて……ここで少しだけ主眼を志乃に移すが、実は三代がこういう男の子だからこそ志乃は好んでいたりする。


 ――顔と体しか見てこない人とは違う。


 初めて会った時、志乃の目には三代がそう映っており、すぐさまに”優しくて良い男の子”だと直感するに至った。

 その後、転がり落ちるように一気に惹かれていった、という流れだ。


 今ではいちゃつくような行動を取るし、志乃は自らキスや抱っこといった接触を求める。

 三代が望んでも嬉しそうに受け入れる。


 だが、それは”好きになった”状態だからなのだ。

 好きだから相手を求めるし、求めて欲しいとも思うのである。

 その前に求められるのは違うのであって、要するに結果に至る過程が大切というわけだ。


 恋愛というのは難しくて面倒くさい。

 しかし、だからこそ、実った時にはひときわ甘い果実になるのかも知れない。



~~~~~

 あとがき。


 本作を気に入って下さる方が徐々に増え、フォローや★がジワジワと増しております。皆さま本当にありがとうございます。出来る限り頑張りたいと思います。

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