2章07.入らないと駄目?
「……ひとまず、美希ちゃんの話を聞いてみようかな」
「おねえちゃんが何をプレゼントされたら喜ぶかのはなしでいい?」
「うん」
「そっか。それなら直接おみせにいったほうが教えやすいから、今からいこうよおにいちゃん」
言葉だけで説明するよりも、実際に店に行った方が分かりやすいらしい。
一理ある。
口だけであーだこーだと言われてもピンと来ない、という事態は意外と多いものなのだ。
「……分かった。それじゃあ案内して貰おうかな」
三代が外出の支度を整え始めると、美希がにこにこしながら両手を差し出して来た。
「その手は……?」
「ただじゃ教えられないよ」
ちゃっかりしている子である。
とりあえず、三代はお礼として500円玉を握らせた。
「500円か……」
美希は溜め息混じりにそう呟く。
遠まわしに「少ないな」と言われており、三代もそれは察した。
だが、これ以上は子どもには多すぎる。
「ごめんね。おにいちゃんもお金持ちじゃないからさ」
「ふぅん。まぁ美希はやさしいから500円でもしっかり教えるよ。ただ……もしもおねえちゃんがプレゼントで喜んだら、成功ほーしゅうでプラスでちょうだいね。それぐらいはいいよね? はたらいた分の対価をもとめてるだけだよ美希は」
労働の対価云々と言われると、どうにも拒否し辛くなる。
恐らく美希もそれを分かっていて言っている。なんだか、将来かなり計算高い女性になりそうだ。
いずれ志乃と同レベルの美少女になる可能性も考えると、手がつけられなくなるかも知れない。
(まぁでも……餌食になるのは俺じゃない。未来の男子諸君だ)
そんなことを思いながら、何はともあれ、三代は美希に案内されるがままに店へと向かった。
そして、思わず固まった。
☆
「おにいちゃんどうしたの?」
「い、いやここは……」
三代は額に汗を浮かべていた。
目の前にあるのがランジェリーショップだったからだ。
「美希ちゃん、こ、ここは女の子用の下着が売っている場所じゃないかな?」
「そうだよ。安心していいよ。おねえちゃんがどんなデザインのが好きかとか、サイズとか、いろいろ美希しってるからね。……おねえちゃん、そこそこ下着に凝るタイプなんだよ?」
言われて、三代は台風の時のことを思い出した。
あの時確か志乃は赤色の下着を洗っていた。
女性がどういう基準で下着を選ぶのかは分からないが、とりあえず、赤は結構挑発的な色である。
そういった色を選ぶくらいなのだから、少なくとも『なんでもいい』とは考えていないのだ。
志乃が下着に凝るタイプ、というのは本当のようだ。
しかし……だとしても……この中に入るのは勇気が必要である。
三代は店に入れず唸った。
すると、美希が呆れた様子で首を横に振った。
「おねえちゃんの喜ぶ顔がみたくないの?」
「それは見たいんだけど……」
「なら入るしかないよ。ほらほら」
「こ、心の準備が……」
美希に尻を押されて、三代は半ば無理やりにご入店となった。そして、店に入った瞬間に周囲の視線が一斉にこちらに向かって来た。
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