2章07.入らないと駄目?

「……ひとまず、美希ちゃんの話を聞いてみようかな」

「おねえちゃんが何をプレゼントされたら喜ぶかのはなしでいい?」

「うん」

「そっか。それなら直接おみせにいったほうが教えやすいから、今からいこうよおにいちゃん」


 言葉だけで説明するよりも、実際に店に行った方が分かりやすいらしい。

 一理ある。

 口だけであーだこーだと言われてもピンと来ない、という事態は意外と多いものなのだ。


「……分かった。それじゃあ案内して貰おうかな」


 三代が外出の支度を整え始めると、美希がにこにこしながら両手を差し出して来た。


「その手は……?」

「ただじゃ教えられないよ」


 ちゃっかりしている子である。

 とりあえず、三代はお礼として500円玉を握らせた。


「500円か……」


 美希は溜め息混じりにそう呟く。

 遠まわしに「少ないな」と言われており、三代もそれは察した。

 だが、これ以上は子どもには多すぎる。


「ごめんね。おにいちゃんもお金持ちじゃないからさ」

「ふぅん。まぁ美希はやさしいから500円でもしっかり教えるよ。ただ……もしもおねえちゃんがプレゼントで喜んだら、成功ほーしゅうでプラスでちょうだいね。それぐらいはいいよね? はたらいた分の対価をもとめてるだけだよ美希は」


 労働の対価云々と言われると、どうにも拒否し辛くなる。

 恐らく美希もそれを分かっていて言っている。なんだか、将来かなり計算高い女性になりそうだ。

 いずれ志乃と同レベルの美少女になる可能性も考えると、手がつけられなくなるかも知れない。


(まぁでも……餌食になるのは俺じゃない。未来の男子諸君だ)


 そんなことを思いながら、何はともあれ、三代は美希に案内されるがままに店へと向かった。

 そして、思わず固まった。





「おにいちゃんどうしたの?」

「い、いやここは……」


 三代は額に汗を浮かべていた。

 目の前にあるのがランジェリーショップだったからだ。


「美希ちゃん、こ、ここは女の子用の下着が売っている場所じゃないかな?」

「そうだよ。安心していいよ。おねえちゃんがどんなデザインのが好きかとか、サイズとか、いろいろ美希しってるからね。……おねえちゃん、そこそこ下着に凝るタイプなんだよ?」


 言われて、三代は台風の時のことを思い出した。

 あの時確か志乃は赤色の下着を洗っていた。

 女性がどういう基準で下着を選ぶのかは分からないが、とりあえず、赤は結構挑発的な色である。


 そういった色を選ぶくらいなのだから、少なくとも『なんでもいい』とは考えていないのだ。

 志乃が下着に凝るタイプ、というのは本当のようだ。


 しかし……だとしても……この中に入るのは勇気が必要である。

 三代は店に入れず唸った。

 すると、美希が呆れた様子で首を横に振った。


「おねえちゃんの喜ぶ顔がみたくないの?」

「それは見たいんだけど……」

「なら入るしかないよ。ほらほら」

「こ、心の準備が……」


 美希に尻を押されて、三代は半ば無理やりにご入店となった。そして、店に入った瞬間に周囲の視線が一斉にこちらに向かって来た。

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