2章04.お店の制服を着た志乃
カフェ店員の制服はいたって普通だ。
白いシャツに三角巾、それと店のロゴが入った落ち着いた雰囲気のベージュのエプロンドレスである。
ひらひらしていて可愛さ重視だったり、男性客を想定した店にあるようなきわどい格好なんかではない。
しかし――そんな普通の制服を着て現れた志乃は、なんの変哲もないのに途轍もなく可愛く、破壊力が抜群であった。
「えへへ……。初めてこの格好見せたけど、どうかな?」
「可愛い」
「やったー!」
志乃は両手を挙げて喜んだ。
そして、他の手隙のスタッフを一度集めると、三代と腕を組んでニコニコと嬉しそうにしながら紹介を始める。
「こほん。……それでは、みんなに改めて紹介します。この人があたしの彼氏の藤原三代です」
すると、スタッフたちは、興味深げに三代を頭のてっぺんからつま先までを眺めて――
「ねぇねぇ藤原くん、どうして志乃と付き合うことになったの?」
「それ気になるー。なんとなく志乃ぴっぴの方が好きになったのは分かるんだけど、藤原くんの方は志乃のこと好きにならなさそーに見えるし」
「どこまでいったの? もうキスくらいは済ませたよね?」
「告白はどっちから? それとも気づいたら付き合ってたな流れ?」
――いきなり質問攻めが始まった。
付き合うまでに至った経緯や、いまどこまで進んでいるかについて凄く興味を持たれているようだ。
「最初に好きになったのはあたしからで、ぐいぐい攻めたのもあたし。でも、告白は三代から」
えっへん、と志乃が胸を張ると、周りのスタッフが「おおー」と声を上げた。
「やだー羨ましい。私も彼氏いるけど、告白したの私の方からだったもん」
「告白は男の子からして貰いたいよね」
「うんうん。大事な所だからやっぱりね」
「人生の先輩兼副店長の私もここで一言。藤原くんから告白したのは良いことだと思う。そういう区切りをきちんとつけれない男は駄目なヤツだから。……なぁなぁで付き合おうとする男は、だいぶ長い付き合いになって結婚を匂わせても、『いや、だって俺別に好きとか言ってないし……。そんな気無かったから別れる』とか言い出すヘタレの確率が高い」
「彼氏と別れたばかりの独身30前半の実家住みおばちゃんの言葉は重い……」
「何か言った?」
「いやなんでもないです副店長……」
騒がしい感じではあったものの、なんというか、祝福されているというのだけは伝わって来る。
周りに彼氏の存在を教えることが出来たからか、志乃も嬉しそうだ。
こうして幸せそうな笑顔の志乃を見ると、本来の目的はさておき、単純に来て良かったと思える。
☆
質問攻めも終わり、彼氏特典の紅茶とお菓子も食べ終わった所で、三代は早々にカフェをあとにした。
長居するのも、それはそれで仕事の邪魔になると思ったからである。
しかし、店を出てすぐに、なぜか学校の制服に着替えなおした志乃が追いかけて来た。
「志乃……?」
「今日はもう上がりでいいし、バイト代もいつも通りの時間働いたってことにしとくから、彼氏と一緒にいなさいって副店長が言ってくれて……」
職場が気を使ってくれたらしい。
「それとあと……次から来て貰うならバイト終わり頃にして貰った方が良いかなっても言われたり」
三代はここで、無料で出された先ほどの彼氏特典の意味を察した。あれは、バイト終わりの彼女を迎えに来る彼氏へのサービスなのだ、と。
「そういうことか」
「へ……?」
「いや、なんでもない。……取り合えず、志乃のバイトが終わった頃に迎えに行くようにする」
三代はそう言いながら、あることに気づいた。
マンションから駅までの送りはいつもしていたのだが、その前の迎えについては気に留めたことが無かったな、と。
一人で夜道を歩かせてしまっている時間がある――そこまで考えが至らなかった自分の鈍さについて、三代は心の中で反省を行った。
「……迎えに来てくれるの?」
「夜は危ないからな」
「ありがとー!」
だが、そんな三代の気持ちなど知る由もない志乃は、迎えに来て貰えることを純粋に喜んだようで勢い良く腕を絡めて来た。
ただ、勢いが良すぎたせいか腕が胸に当たり……その柔らかい感触に思わず三代は頬を掻く。
キスもするし、膝の上にも乗せるけれども、実は胸に触れるような意味での男女の仲にまではまだ至っていない。
だから、なんだかむず痒い気持ちになってしまった。
「……そ、それで、今日はこれからどうする? 行きたい所とかあるか?」
「行きたいところ……それなら紅葉が見たいかな? 記念公園でいま紅葉がピークって雑誌で見たんだ。秋デートの定番! って書いてあったし」
「紅葉か……。行ってみるか」
二人で寄り添いながら歩く。
向かう先は、もちろん志乃の希望通りに記念公園だ。
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