2章03.かふぇ

 志乃が激おこして合コンはお流れになった。

 当人の気持ちを思えば当たり前のことだし、十分に理解も出来る。

 だが、合コンに参加することが、交際を周囲に広く知らしめる一つの機会に成りえたのもまた事実であった。

 そういった意味では、実は三代は若干ながらに残念に思ってはいた。


 志乃は疑いようもない美少女であり、それがどれほどかと言うと、校内に留まらずに校外でも名が知れているほどだ。

 例えば、ふと入った何気ない店で。

 同じくらいの歳の子たちや、あるいは大学生のような人たちが志乃の噂話をしているのを三代は聞いたことがあった。


 三代の通う高校を挙げて、『結崎志乃という名前の凄い美少女がいるらしい』と。


 合コンで志乃の名前を出すと良く集まる、というのも納得が出来る。

 だからこそ、けん制はしていきたいのである。


「うーん……」

「なに悩んでるの?」


 膝の上に乗せていた志乃が、小首を傾げながらきょとんとした。取り合えず、志乃の両手を握って軽く振りながら三代は答える。


「俺たちの関係をどう広めて行こうかな、と。学校の方は、志乃の友達たちから後は勝手に広まっていくだろうが……外はどうしたものかなと」

「学校の外?」

「そうそう」

「それじゃあ……バイト先に来る? そしたら、バイト先からも広がるかも」


 盲点だった。

 校外でも広めるとしたら、志乃のバイト先に顔を出すという手も確かにある。


「カフェだっけか……?」

「そうだよー。彼氏いるって言ったら連れて来てみなよって言われたし、丁度良いかなって」

「まぁ、志乃が良いのであれば」

「全然OKだよ。っていうか、あたし的にはもっと前から来て貰いたかったんだけど、三代が隠したがってたから言い出し辛かったというか」

「……悪かった」

「いいよいいよ。じゃあ明日一緒に行こうね」


 こうした話の流れになったこともあり、取り合えず、志乃のバイト先に行くことになった。





 ――翌日。

 志乃に同行してバイト先のカフェに入店した三代は、しかし、なんとも言えない居心地の悪さを感じていた。


「志乃ちゃんの彼氏だって」

「うーん。……まさか地味めで真面目っぽいのが来るとは」

「いやでも志乃ぴっぴも意外と真面目だからね? それ考えると順当なのでは?」

「志乃が男苦手なのは知ってるから、そういう意味では……まぁ、納得と言えば納得な彼氏だよね。なんか優しそうだし」


 お洒落な洋風のこのカフェは、女性向けの落ち着ける空間を目指しているらしく、店員も客も大体が女性だったのだ。


 そして、その全てから一斉に視線を向けられている。


 男の入店が珍しい……というよりも、志乃の彼氏だからこそ興味を持たれている、という感じだ。


 彼氏特典とかいう、店員の彼氏は一日一回無料で頂けるらしいお菓子と紅茶を口にしながら、なんとも言えない空気に三代は口を歪ませる。


 かくして。

 お店の制服に着替えて来る、とバックヤードに入った志乃が出て来るまでの間、値踏みされるような視線にそわそわし続けることになった。

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