2章02.機嫌と気分を直しましょう

 志乃に喜んで貰えるならと思い、三代もなし崩しに受け入れた改造計画ではあったが、結果的には失敗した。

 志乃を怒らせて半泣きにさせてしまったし、そうして悪くさせた機嫌が良くなることは無く、むしろ徐々に酷くなっていったからだ。


 マンションには一緒に来てくれたが、何を言ってもハムスターのように頬を膨らませて横を向かれる。


(このままだと志乃が帰る時間になってしまう。参ったな……)


 三代がほんのりと眉をハの字にして頭を掻くと、それを横目に見た志乃が、膨らんだ頬を徐々にもとに戻した。

 少しは怒りが収まって来たらしく、ぽつりとこう言った。


「だめなんだからね。他の女の子が近づいても、絶対にそっちに行ったらだめなんだからね……」


 志乃の怒りの大部分は嫉妬であるようなので、三代はなんだかそれが少しだけ嬉しくて表情を緩めた。


「行かない。他の女の所には絶対に行かない」

「ほんと……?」

「本当だ。そもそも、前に言っただろ。志乃を貰うって。……一緒になると決めた女以外には振り向かない。絶対に」


 素直で直接的なこの言葉は効果てきめんだった。

 志乃は雰囲気を和らげると、三代の膝の上にすとんと腰をおろした。


「機嫌直ったか?」

「うん……」


 やっと機嫌を直してくれたようだ。

 これでようやく普通に話が出来ると三代はホッとして、こうなった原因についてあーだこーだと説明した。





「……と、言うわけなんだが」


 三代が全てを話し終えると、志乃が盛大な溜め息を吐いた。


「あの子たち……」

「まぁ、合コンはともかく、改造の方は途中から俺も少し乗り気になった。格好良くなれば志乃も喜ぶかなと」


「……そんなことしなくても、私にとってはもう十分格好いいの。それと、あたしの友達に何か言われてもついていかないで。……考えてみて。もしもだけど、あたしが三代の友達の男に何か言われてついていって、急にお洒落に変化起きたりしたら嫌な気持ちにならない?」


 言われて見て、なるほど、と三代は思った。


「俺は友達がいないぼっち……というのはさておき、確かに立場を変えて想像してみると凄い嫌な気持ちになるな」

「でしょ。そーいうのは“めっ”だよ?」

「めぇー……」

「羊の鳴き声じゃなくて」

「分かってる。ごめんな……」

「うん。……あと、合コンは行かないからね。断るから」


 志乃は三代の返事を待たず、スマホを取り出すと通話を掛けた。相手はもちろんあの5人のギャルの中の誰かだろう。


『志乃どしたのー』

「――合コン、絶対に行かないからね!」

『ありゃりゃ、こりゃだいぶ本気で怒ってるね……』

「人の彼氏を玩具にして、そのうえダシに使ってあたしを連れ出そうなんて、反省してよ!」


『……はぁ。失敗かぁ』

「反省!」

『はい。……でもずるいんだよねぇ。志乃だけ彼ピ出来るし』


「努力しなよ! あたしも努力したんだから!」

『……それは分かってるんだけどね。どうにも。っていうか、志乃相手に努力させるって中々凄いね藤原。大体は男の方から跪くのに』

「からかわないで。とにかく、じゃあね」

『うん』


 志乃はぷんすか怒りながら通話を切ると、三代の首に手を回して、「気分直し」と言ってキスを要求して来た。


 断る理由はないので、もちろん望み通りにしてあげた。

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