2章:いちゃつき始める二学期編

2章プロローグ:人前でいちゃついてあと帰っていいよ

 近い所から徐々に恋人であることを伝えていく――そう決めた翌日の放課後のことであった。

 志乃がバイトへと直行していく姿を遠巻きに見送った後に、三代が家に帰ろうとした時だ。


「ねぇ藤原、ちょっと話いい?」


 志乃の女友達たちから声を掛けられ、三代は怪訝に眉を顰めた。

 一体なんの話だろうか……?


 特に声を掛けられる理由に思い当たる節は無い。

 だが、志乃の友達とあっては邪険にも扱えないこともあり、取り合えず場所を変えて話を聞くことにした。


 学校近くにある学生に人気のカフェで、ジュースを飲みながら、総勢5名の女たちからじとっとした視線を向けられる。


「なんか薄々そんな感じはしてたんだけど、志乃と付き合ってるんだって?」


 志乃は行動が早いようで、もう友達に交際について教えたようである。

 だが、その友達たちは少し重苦しい感じの雰囲気だ。

 もしかすると、「志乃に相応しくない」と否定的なのかも知れない。


 三代が思わず身構えると、志乃の友達たちは一様に溜め息を吐いた。


「別にあんたがどうこうは言わないって。志乃が良い男だと思って選んだんだろーから、それにケチはつけないって。……そういうんじゃなくて、ちょっと困ってることあるから」

「困ってること……?」


「前々から志乃を合コンに誘ってたんだけど、拒否られるんだよね。元から断られ気味ではあったけど、最近は本当に取りつく島もないって感じ。まぁ彼氏が出来たからって言うなら納得。……でも、志乃が来ると来ないじゃ全然違うの。志乃ブーストは鬼ヤバだから」

「何が言いたいのか話が見えないんだが……」


「頼みがあるの。あんたも一緒に合コン来てよ。そうすれば志乃も来るだろーからさ」


 謎のお願いだった。


「志乃ブーストをあともう一回くらいやりたいっていうか。本当に男の入りが違うからさ。……お願い」


 一斉に女の子たちが頭を下げて来る。

 かなり真剣な感じだ。


「言いたいことは分かったが……なんていうかその、彼氏も一緒に来てるとなったら相手は怒らないか? 大人しく志乃を誘うのは諦めた方が……」

「そんなことない。むしろ好都合かも」


「……は?」

「『実は志乃には彼ピがいるから駄目なんだ。あたしらの中から選ぼうねー』って言えるから。……藤原の役目は、男たちの目の前で志乃とちゅーでもして彼氏の証明をするだけ。だから、来ていちゃついてあとすぐ帰っていいよ」


 平然とした表情で凄いことを言われた。

 人前でいちゃついて、あとは帰っていいらしい。


「それとも何、あんた志乃とまだちゅーもしてないの?」

「いや、それはもう既に……」

「なら良いじゃん」


 簡単に言ってくれる。

 ちゅーは確かに良くするが、それは基本的に二人きりの時にだ。

 人前でするのはさすがに三代にも恥ずかしさがある。


「それに、藤原にとってもメリットあるよ。志乃に彼氏いるって広まれば、変に狙おうとしてくる男も消えるし。そこらへん心配じゃないの?」


 痛い所を突いてくる。

 それは確かに心配なことで、少しずつ周囲に関係を伝えようと決めた理由の一つでもあるのだ。

 ただ、「人前でちゅーは……」という思いもあるわけで。


「……っていうか、ちょっと藤原改造しない? なんか地味なんだよね。合コン連れてくんだからもう少しカッコ良くしないと。それに大改造すれば志乃も驚きそーだし」


 ふいに、女の子の一人がそう言った。

 すると残りの4人が反応した。

 気づいたら、三代は引きずられるようにして外へ連れて行かれた。


 色々とまだ答えを出していないのだが……取り合えず、合コンの参加が決定事項のように扱われている。

 ついでに、改造とやらもされることになってしまったらしい。

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