10.恋のキューピット? そして小玉メロン

「ほら、挨拶」

「……はじめましてです。美希です」


 おずおずと三代の目の前に出て来た志乃の妹――美希は、姉妹というだけあって志乃に似ていた。


 一見して分かる違いは、染めている志乃の髪の色を除けば目元くらいだ。

 志乃がくりっとハッキリした二重であるのに対して、美希は綺麗な二重ではあるものの垂れ目である。

 

 目元だけ変えれば、小さい頃の志乃はきっとこういう見た目だったのだろうな、と思わせるぐらいにそっくりである。


「よろしくね、美希ちゃん」

「あ、あい……」


 美希は目をぎゅっと瞑って俯いた。

 怖がっているというよりも、恥ずかしがっているような雰囲気だ。


「藤原、本当にごめんね……」

「別に謝らなくても」


 予想外ではあったものの、志乃が妹を連れて来たことについては、実はむしろ内心ホッとしている。

 二人きりだと、変なことを考えてしまいそうになる。

 だから、第三者が加わるのは三代としては嬉しい誤算でもあったのだ。


「……迷惑かけると駄目だから、大人しくおうちでお母さんとかお父さんと遊んでなっては言ったんだけど」

「大丈夫大丈夫。……多分だけど、お姉ちゃんのことが好きで一緒にいたかったのかな?」


 三代がしゃがんで目線を合わせて微笑むと、美希はにこっと笑って小さく頷いた。


「うん。おねえちゃん好き」


 見た目の年齢相応の、純真な女の子といった反応だ。

 しかし、一部始終を見ていた志乃が、なぜかなんともいえない表情になっていた。


「結崎? どうしたんだ?」

「……先に言っておくけど、仲良くなると一気に悪戯っ子になるのが美希だから。あと猫を被るのも得意」


 志乃がそう言うと美希が目を泳がせた。

 そして、言った。


「おねえちゃん昨日のことまだ怒ってる……?」

「ん? それは勿論」


「そんなに怒らないで……。だって、おねえちゃんのブラジャーに小玉メロンがギリギリ乗せられるかもって思って……」

「だからって乗せて振り回して遊ぶことはないでしょ! ストラップもホックも壊れちゃったんだよ!」


「おねえちゃんのおっぱいが意外と大きいのが悪いんだよ……」

「悪くない」

「わがままボディだから……」

「ど、どこで覚えたのそんな言葉」

「テレビでやってた。出るとこ出てて引っ込むとこ引っ込んでる体はそう言うんだって」


 志乃と美希のやり取りを見て、三代は固まった。

 ブラジャーで遊んでいたのがどうとか凄い会話をしているようだが……。


 美希は初見の印象とは裏腹に、志乃の言う通りに本性は中々に自由奔放なようだ。


 それにしても、男としては反応に困る話である。

 三代は取り合えず、耳を両手で塞いで会話が聞こえないようにした。



「ところで、おねえちゃん。……ともだちのお家行くって話だったのに、女の子のお家じゃないんだね」

「女の友達の家っては一言も言って無いよー」

「おとうさんとおかあさんには黙ってたほうがいい?」

「そ、そのうち言おうとは思ってるけど、今はまだそういう関係じゃないし……その……出来れば……」


「そういう関係……? 今はまだ……? うーん。美希にはまだ良くわかんないけど、黙ってて欲しいっていうなら黙っておくね。でも、その代わりに、美希の前であのお兄ちゃんとちゅっちゅしてね」


「――えっ⁉」


「ドラマでちゅーしてるの見たんだけどね、そしたら、実際のちゅーってどういう感じなのかなって気になってきちゃって、見てみたいなって。だから、ちゅっちゅしたら黙ってる」

「……」





 歩き始めて数分も経つと、美希はすっかりと三代にも慣れたらしい。

 ニコニコと楽しそうに笑うようになった。

 しかし、なぜかその一方で、隣の志乃が耳まで真っ赤にして前髪をいじるようになっている。


(さっきの、ブラジャー云々の話をまだ気にしているのかも知れないな……)


 三代はそう推測を立てる。

 なるべく、それを連想させる話題には触れないようにしようと思った。


 実を言うと、志乃の頭の中を埋め尽くしていたのはキスのことだ。

 しかし、三代はそれには気づかなかったのであった。

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