04.惹かれ始める?

 三代はリビングのソファに座ると、台風情報の続きを見ながら志乃を待つことにした。

 延々と続くアナウンサーと気象学者のゲストの話に耳を傾けると、どうやら朝方まで台風の影響が続くらしい。


『北上スピードが些かゆっくりになりましたが……』

『上陸すると速度が落ちるのは、そう珍しい話ではありません。朝方くらいまでは、大雨強風が続くでしょう』


 頬杖をつきながら、こうしてぼけっとテレビを見つめていると、二十分ほど経ってから志乃が戻って来た。


 志乃はまだ顔を赤らめていたものの、先ほどの下着云々の話になった直後に比べれば、落ち着きを取り戻している様子だ。

 まだ薄っすらと頬が朱色に染まっているが、真っ赤ではない。


「……終わったのか?」

「うん。……あと、事後報告になっちゃうけど、乾燥機置いてあったから使っちゃった」

「別に構わない。好きに使っても」


「ありがと。……それにしても、乾燥機が家にあるって凄いね。高いでしょあれ」

「高いか安いかは分からないな。マンションに備え付けだったんだ。経済競争のお陰なのか最近は設備が充実している賃貸も多いから、別に珍しくはない。……それより、乾燥させたあとの制服はどうしたんだ?」

「型崩れしないように伸ばして、それからあっちに吊るした」


 志乃が指したのは部屋の角だった。

 僅かな端のでっぱりに上手くハンガーを引っ掛けている。


「あんなところに掛けなくても」


 部屋干しするスペースが無いわけではないので、あんな隅に申し訳なさそうに吊るす必要は無いのに、と三代は思った。


 しかし――志乃が僅かに俯いてもぢもぢしたのを見て、洗濯の時とは打って変わり三代は機敏に察する。

 下着もあるから、なるべく目に触れない所に置きたかったのだということを。


「いや、むしろあそこで良いかも知れない。何気にエアコンの近くだからな。いくら乾燥機を使ったとしても、まだ少し制服が湿っている可能性もある。あそこに置いて除湿にすれば完璧だ」


 しれっとそう言いながらエアコンを操作する。すると、志乃がホッとしたように胸を撫でおろした。

 取り合えず、あそこには近寄らないようにしよう――三代はそう決意した。





「うぅ~」

「唸ってもどうにかなったりはしないぞ」


 時計の針が23時を周り、いよいよ台風が直撃した最中、二人はテレビゲームに興じていた。

 三代がだらだらニュースを見ていたら、「遊ぼうよ」と志乃が言い出したので、押し入れからゲーム機を引っ張り出してみたのだ。


 ゲーム機もソフトも10年も前のものであり、最新ではないが、そこそこ遊べている。


(小さい頃、いつか友達が出来たら一緒に遊べるようにって父さんにねだって買って貰ったんだよな。結局友達は出来なくて、でも捨てられなくて……。まさか、今になって役に立つとは)


 三代はオタクではあるけれど、もっぱら深夜アニメ視聴が主で、ゲームはあまりしない方ではある。

 一緒に遊ぶ相手がいないからだ。


 一人で出来るゲームだってもちろん沢山あるが、それらについては、プレイ動画を見たりネットで攻略を見て満足していた。


「ところで……NPC強すぎない?」

「一応最弱設定にはしているんだが……確かに強い」


 二人がやっているゲームは、途中でミニゲームも入って来る双六のパーティゲームだ。初心者二人でも楽しめるように設定も最弱にしているのだが、なぜかNPCがトップに君臨している。


 バグっているのではないかと思うくらいに強く、今から追いつくのはほぼ不可能なぐらい爆走されていた。


「これステージ悪いよ。最初からやり直して違うステージで始めてー」


 どうにも志乃は負けるのが面白くないらしく、そんなことをせがんで来た。


「……じゃあ変えてみるか」


 特に拒否する理由も無いので、三代は志乃に言われたとおり最初からやり直すことにした。

 すると、今度はNPCが急激に弱くなった。


 やはり先ほどのはバグだったようだ……というのはともあれ、最初からやり直したゲームが中盤に差し掛かった頃に、今度は志乃が1位を独走し始めた。


「やった! これもうあたしの勝利確定!」

「さて、次は俺の番か……」

「もう消化試合みたいなもんだよ。残念~」


 にやにやしながら勝ち誇る志乃に煽られながら、三代はサイコロを振る。

 そして、出た目の数を進みそこであるアイテムをゲットした。プレイヤー同士のマスを入れ替える事が出来るレアアイテムだ。


「おっとこれは……」


 三代はちらりと志乃を見ると、余裕であった表情が一転し、「あわわわ」と両手で口を押えていた。

 予想外のアイテムに慄いたようである。


「つ、使わない……よね?」

「まぁ俺は勝ち負けはあんまり気にしないから」

「良かった……」

「でも、折角手に入ったんだから使わないと勿体ないよな」


 ということで、三代はぽちっとアイテムを使った。すると、三代と志乃の位置が入れ替わる。

 一気にトップに躍り出た。


「う、うそつき~!」


 半泣きになりながら、ぽかぽかと志乃が肩を叩いて来る。

 その仕草がなんだか可愛く見えてしまって、思わず三代はくすりと笑い――


 ――次の瞬間。


 激しい落雷の音と共に電気が一斉に落ちた。

 停電だ。

 突然の出来事に、三代と志乃の二人は揃って目を丸くした。

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