03.意外と家庭的
「ありがとー助かったぁ」
お風呂に入り体をしっかりと温めた志乃が、ぽわぽわした表情でソファに座った。
着ている服は三代のものだ。
替えの服が無いのは一目瞭然であったので、仕方ないとして貸したのだが……何気に二度目である。
「……それにしても」
「うん?」
「家まで電車で一時間だっけ? まぁその、歩いて帰れる距離じゃないのは分かるんだが……男の家に泊まるって大丈夫なのか?」
「大丈夫。女の子の友達の家に泊まるって言った」
「バレたら大変なんじゃ……。というか、俺の家じゃなくて、友達の家に泊まれば良いのでは? 近くに住んでる友達もいることはいるだろ?」
「いるけど……でも、迷惑になるかもだし」
「俺になら迷惑かけても良いと?」
「そ、そういうんじゃ……」
つんつん、と志乃は指を突き合わせる。
申し訳ないと言いたげなその仕草に、三代はなんだか毒気を抜かれてしまった。
「まぁ良いや。それよりも、制服どうするんだ? 雨吸った後のはそのまま乾かすと匂うぞ」
「それは確かに。……クリーニング屋さん、この台風だとやってないよね?」
「台風直撃だし、さすがに臨時休業しているだろ。24時間営業のところも」
「だよね。……しょうがない。自分でやろーかな」
「へ……?」
「洗濯用洗剤とバケツあったら貸してー」
ギャルが洗濯など出来るのだろうか? そもそも、制服って自分で洗えるのだろうか?
三代は怪訝に首を傾げつつも、取り合えず、言われるがままに洗剤とバケツを渡した。
すると、志乃は手際良くお風呂場で制服を手洗いし始めた。
「手洗いって……。洗濯機ならあるぞ」
「手洗いじゃないと駄目だよー。制服のラベル見たことある?」
「ラベル?」
「ほらここ」
志乃に言われて、三代は制服の襟にあるラベルを見た。そこには、バケツの中に手を突っ込んでいるような絵が描かれていた。
「これは手洗いならおっけーって意味。洗濯機はNG」
「……良く知ってるな。ギャルなのに」
「ギャルが洗濯が出来ないってそれ偏見ー」
「わ、悪かった」
「ふふっ。冗談冗談。……まぁ、でも、藤原の印象通りに出来ない子は多いよ。洗濯に限らず家事全般。あたしは結構やるけど。……お金がある家じゃないから、妹たちの世話も含めて、時間ある時は自分でなんとかしてるんだ。バイトしてるのも、自分で自由に使う分くらい自分で稼ごうって思って始めてるしねー」
どうやら、家の事情もあって志乃はそこそこ家事が出来るようだ。普通のギャルとは違うらしい。
意外な一面を見た気がした。
「しっかりしているんだな」
「うん……」
志乃は目を細めて薄く笑んだ。
それは、角度によっては、喜んでいるようにも見える笑顔だった。
褒められたことが嬉しかったのかも知れない。
(……こういう素直というか純粋な所を見てしまうと、『それが自然な関係性だから』として距離を置こうとした自分が、なんだか少し馬鹿らしくなってくるな)
今までの自分を省みて、三代は少しだけ反省した。
そして、これからは普通に接して見ようという思いが湧き、ひとまず、洗濯の手伝いを申し出る。
すると、志乃は急になぜか顔を真っ赤に染め上げ、「手伝いはいいよ」と拒否してきた。
「手洗いって結構力使いそうだし、俺も手伝って――」
「――い、いいよ別に!」
「そんなに力強く拒否しなくても」
「……ぎ……も洗ってるから」
「良く聞こえないんだが、今なんて言ったんだ?」
「し、下着もついでに一緒に洗ってたから……やだ……」
言われて、三代はバケツの中をちらりと見た。すると、泡の下に赤っぽい何かが見えた。制服はそんな色をしていないので――つまり下着である。
下着を洗うのは何もおかしなことでは無い。
訪問時にあれだけびしょ濡れだったのだから、下着も濡れていたに決まっているのであって、それは当たり前なのだ。
どうしてそれに気づけなかったのだろうか?
察することが出来なかった自分の愚かさや、ちらりと下着を見てしまった事への恥ずかしさが混じりあって、三代の顔も志乃に負けず劣らずに赤くなった。
「そ、そうか……下着も洗っていたのか……」
「う、うん……下着も洗ってたから……」
取り合えず、三代はそそくさとお風呂場から撤退することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます