02.台風で電車が止まったから泊めてとは

 志乃が意外と純粋だと知ってから、時間が経つに連れて三代は周囲の視線をあまり気にしなくなった。

 噂される事に慣れたというのもあるし、どうせ友達もいないぼっちだからどうでも良いという開き直りもある。


 しかし――その一方で、気づいたらいつの間にか志乃が再開したシャーペンつんつん攻撃に頭を悩ませることになった。


(……ま、まぁ耐えていればそのうちまた飽きるだろう)


 口を歪ませつつも、三代は取り合えず、今まで通りの耐えて無視の続行を決意する。


 志乃がそう悪い女の子ではない、というのは聞いてしまった会話から理解はしたのだが、だからと言って『距離を縮めよう』とまでは思わなかったのである。


 もともと自分と結崎は住む世界が違う。その現実を考えると、話をする以前に一言も交わさない関係が自然だ。

 だから、自分はそうなるように動くべきなのだと三代は結論付けていた。


 しかしながら、そうした三代の行動をあざ笑うかのように、どういうワケか志乃は飽きずにいつまでも攻撃を続けて来た。


 背中に跡がつきそうになって来た頃になって、ようやく、きちんと言葉にしなければ止まらないのかも知れないと三代は判断して振り返った。


 すると、そこには少し寂しそうな表情をしている志乃がいた。

 思わず言葉が詰まる。


「な、なんだよその顔は……」

「……待ってるんだけど」

「待ってる……? 何を?」

「ふんっ……」


 志乃はそう言うとぷいっと横を向く。

 一体何の事か分からず三代が首を捻ると、頬を膨らませた志乃が呟いた。


「メモ入れたのに。……まぁ良いけど」


 それは小声だったので良く聞こえなかった。

 ただ、これを境に、志乃はシャーペンつんつん攻撃をぱたりと止めた。





 志乃のつんつん攻撃が止まると、三代の日常は以前に戻り始めた。志乃との絡みが少なくなったことで、周りの興味も薄れて来たらしい。

 元の状態に戻りつつある現状は、三代が望んだ結果へと向かう良い流れである。


 ただ――なぜ志乃が寂しそうな顔をしていたのか?


 それが少し引っかかってはいた。

 だが、特別に何か酷いことをしたわけでもないのも事実だ。


「ギャルは理解不能だ。……まぁもとから縁の無い人種なんだ。気にしても仕方が無い」


 未知の生命体に相対していた気分に浸りつつ、家に帰って早々に、三代は今日も今日とて勉強を始める。


 1時間、2時間と時間が過ぎ、気が付くと21時を回った。


 そろそろ一旦休憩しようと三代は立ち上がり、コーヒーを淹れて一休みしつつ、何気なしにテレビをつけてニュースを眺めた。

 すると、アナウンサーが真剣な表情で速報を伝えている所であった。


『台風が急接近中です。あと二時間もすれば直撃とのことで、不要不急の外出はお控え頂くようにと気象庁が警告を出しました。なお、台風の影響を鑑みて、電車も終電を早め、20時30分発を最後に本日の運行は停止したとのことです』


 ニュースを聞いて三代は窓の外を見る。強まった雨脚と吹いた強風が確認出来た。本当に台風が来ているらしい。


 その時だ。

 インターホンが鳴った。


「宅配か何か? 夜間指定の荷物を頼んだ覚えはないんだけどな……。というか、頼んでいたとしても、台風が直撃云々騒いでいる中で来ないだろ普通。一体誰だ……?」


 ぶつぶつ呟きながら三代が玄関のドアを開けると、そこにはびしょ濡れで「へくち」とくしゃみをする志乃がいた。


「ごご、ごめん。バイト終わって、帰ろうと思ったら台風で電車止まっちゃってて、だ、だから今日泊めて……?」


 どうやら、届いたのは夜間指定の荷物ではなく、美少女ギャルであったようだ。


 些か突然過ぎるこの展開に、三代は頬を引き攣らせるが、びしょ濡れのままの女の子は放置は出来ない。

 ひとまず「入れ」と家の中に招き入れることにした。

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