第4章 合戦
「開門、開門!」
今川館の前に、軍勢が集結しつつあった。
「我こそは
「
丸太を持ってこさせようとしたとき、扉の向こうから声が聞こえた。
「……開門いたす。下がられよ」
門が、重々しい音を立てたかと思うと、ゆっくりと開き出す。
開いた隙間が徐々に大きくなっていき、その武将の姿が露わになっていった。
ほのかに焚き
魁偉な体躯に、堂々たる雰囲気。
「だ、誰じゃおぬしは?」
「つれないお言葉じゃな、兄上」
「貴様――
「
「は、話がちがうぞ。貴様、駿河を出て行って、京へ……」
「それは
「う……ぐっ」
侮っていた。
幼き頃は、兄上兄上と従っていた。出て行けと言えば、その通りにして、二度と帰ってこない。そう思っていた。それが――
「
白刃と白刃。
散る火花。
大将自ら斬りかかるとは何事だ。敵は一人、囲んで始末すれば事足りる。
「ええい、誰か、
「何事か!」
「て、敵襲です!」
「敵!? 今、駿府で我ら以外に兵を差し向ける奴がおるか!」
「し、しかし」
「旗印を見てこい!」
駿河の豪族の誰かか、しかし根回しはしてあるはず。ならば
「
「北条だと?」
「久しいの、福島
「貴様……
黒衣の禅師が、北条家の武将の隣に立っていた。その光景で、
崇孚はつと前へでて、越前守に問う。
「
「だっ、黙れ! 今川館を手中にすれば、駿河・遠江に号令し、北条への討ち入りを……」
「その号令するまでに、なんぞ適当なことを言って、時間稼ぎくらいすれば……」
「禅師、そのくらいに」
北条家の武将も前へ出てきて、問答をさえぎった。
「福島
「北条……
「拙者と主への呼び捨ては措こう。が、貴公の
「
「
*
「俺が貴様に武術を教えてやった! 俺に
「されど、一日だけでは予をしのげぬぞ!」
「おのれ!」
こうなれば是非も無し、取り囲んで始末してくれる。
「
背後からの反応が無く、
そこは乱戦が展開しており、
「……先程から、北条との合戦がはじまっておった。気づかなかったのか、兄上?」
「何?」
いぶかしむ
あるべき体から切り離された、生首が。
「ひ……ひいっ」
動揺する
「何を恐れる。兄上も予も寺に居た身。
「こっ、殺されたばかりのだぞ! 自分が殺されるかもしれんのだぞ!」
「や、やめろっ。俺は死にたくない!
「見苦しきかな、兄上……」
「だ、黙れえっ! お前だって死ぬのが怖かろう! ちがうか!」
「怖くはない。この
「な……なんだと?」
「大将首だ、当たり前ではないか。名のある武士だけではない、足軽雑兵すら狙うてくるぞ……兄上は還俗したとき、そうは思わなんだか?」
「な……な……」
だが
「…………」
ゆらりと。
「や、やめろ、
「……それももう、手遅れじゃ。兄上」
「な、何を言っている?」
「伝令、伝令!
早馬の武者は、混戦の
それを見た
「
武者は焦っていたせいか、
「しからば――
「何い!?」
乱戦の渦中にいた
それを見た兵たちも動揺する。
「
「花倉はどうだ」
「前を見ろ」
「今はそれどころじゃない」
「死にたくない」
「退くなら今だ」
ただ、戦場に不似合いな僧侶姿の
「
「貴殿が自ら出兵したのだ。その留守を狙うは自明の理。備えをしていなかった、貴殿が悪い」
「黙れ。貴様が……貴様が
刹那。
「やめろおっ! 死にたくないっ! は、花倉へ帰せ戻せえ!」
「な、
「に、逃げろっ。
兵たちは格好の口実を見つけ、我先にと走り出していた。
「ご苦労でおざった」
「お互い様でござる……しかし禅師、ひとつよろしいか?」
「何なりと」
「
「……少々、
「海路ですな。なるほど……」
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