第3章 変貌
駿府、今川館。
この年の五月の駿河は暖かく、もはや初夏と言っても差し支えない。
常の年なら、本格的な夏へ向けて、士民ともども活発になるところだが、この館の住人はそれどころではなく、むしろ心は厳寒の冬のようであった。
館の奥の一室にて、尼と、魁偉な
「……
尼――
「何でございましょう、
「そなたは
「行くには行きました。しかし、帰ってきました」
男は、にっと笑う。覗いた歯は、黒く染まっていた。
「……これは失礼。京ではこのような
「……
その敬称で、駿河の統治者として尊崇される彼女の迫力に、男は
「なぜ、帰って来たのか。それを聞いておる。答えよ、
「…………」
「
「……なんじゃ」
「
「何ッ」
男は涼しい表情でそれを眺め、そして、言った。
「……拙者は京で、
「く、
「左様。征夷大将軍、
「そなた、では……」
「
おもむろに、
「予は、
つい先ほどまで、うやうやしい態度であった男は、今や、大大名にふさわしき貫禄をそなえていた。
海道一の弓取り、
「……
「
「
「左様」
かつての礼儀正しい禅僧がここまで変貌するものか、と
「もう策を打ってある……と?」
「兄上のこと、そろそろ……いきり立って花倉から兵を繰り出してくる頃。この今川館を急襲し、有耶無耶のうちに、駿河を盗るという魂胆……読めておる」
足音が聞こえ、駆けてきた家臣が告げた。
「申し上げます。
「大儀。では、予が相手しよう。その方、
「よ、
「はっ、心得ました」
「うむ。ご苦労」
この今川館の主は、
しかしこの時から、今川館の主は
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