第50話 エピローグ

 気がつくと、真っ白い空間にいた。


「おつかれさまでした」


 神様が突然目の前に現れて、労いの言葉を掛けてきた。


「まず、確認なのですが、精霊達のご機嫌は取れたと考えてよろしいですよね?」


「もちろんです! 他世界から移住し始めました!」


 ホッと、息をついた。とりあえす依頼は達成したと考えよう。



「さて、報酬の話をしましょうか」


「……異世界で考えていたのですが、やはり何もいらないです」


「え?」


「自分はやはり、結構恵まれている方だと思えました。真面目に努力をして得た力で生きて行きたいです。祖母は臨終の間際に、『汗水流して稼いだお金で食べるご飯が一番美味しい』と自分に遺言を残しました。異世界でその意味が理解出来たような気がします」


「……」


「でもそうですね。主人公補正とか欲しいです。強運かな? ほんの少し他人より運が良い。それくらいはねだりたいですね。一応家訓としても伝わっている言葉です。顔も知らない祖先の言葉ですがね」


「ぷっ。やっぱり変わった人ですね」


 笑われてしまった。


「高い才能を貰っても、それが幸福に繋がるとは限らないと教えて貰いました。勇者の言葉が人生観を変えてくれました」


「う~ん。記憶を持って、幼児からのスタートにしますか? 転生です」


「いえ。倒れた直後から、再度始めさせてください。あの人生を続けて行って、胸を張って会いたい人がいます。それ以外の希望は出ませんでした」


「本当に欲がないのですね」


「強欲の人気持ちが分かりませんね。もしくは、それなりに出来る人生を送ってきたので知らないだけかも知れませんが。お金は生活出来るだけの金額があれば、良いかなとも思っています」


「……強運。もしくは、主人公補正ですね。困った時には、周りの人達が助けてくれる人生にしましょうか」


「ありがとうございます。それでお願いします」


 互いに笑いあった。

 そこで意識を失う。



 ハルカとテオドラには、別れの挨拶くらいはしたかったな……。





 目が冷めた。目の前の画面は、アクセスカウンターが増え続けていた。数字からすれば、時間はそんなに経っていないのだろう。

 夢だったかも知れないが、豆だらけの手を見て、実際に起こった事を確認する。


 足元には宝箱が落ちていた。多分、指輪と宝珠が入っているのだろうな。


「神様に気を使わせてしまったか」


 インテリア代わりに、宝箱を本棚の上に置く。

 空間魔法の無い世界。いや、魔法の無い世界で、自分は生きて行く。

 この宝箱は開けないで済むことを祈ろう。


 窓の外は晴れていた。窓を開けて換気する。

 異世界で、今まで知らなかった自分を知ることが出来た。戻ってきた世界で実際に試してみて、心許せる友を作って行こうと思う。あと、やっぱり彼女が欲しいな。ハルカとテオドラとの生活は楽しかった。


「さて、何か食べようか」


 部屋から出ようとしてドアを開くと、真っ白い世界が目の前に広がっていた。



「え?」


 一歩踏み出して、固まってしまった。振り返ると、自分の部屋は消えていた。触れていたドアも消えてしまた。

 こめかみを押さえる。

 もしかして……いや、もしかしなくても、また異世界だよな。

 なにが起きたのだろうか?


 考えをまとめようとした時だった。目の前で光る岩が目に入った。

 まず、間違いなくダンジョンコアである。


「ここは、ダンジョンルームだよな……」


 一人言が出た。


「そうです。正解です。さすが、異世界を救った英雄様ですね!」


 誰かが、自分の一人言に反応した。

 振り返ると、可愛らしい女性がいた。


「どなたですか?」


「ダンジョンマスターのセツナです」


 頭がクラクラしてきた。


「なんでまた、ダンジョンルームに呼ばれたのでしょうか?」


 裏返った声で質問をする。


「私が住んでいる世界では、現在困っている状況にあります。『時間魔法』しか使用されなくなり、六大属性の精霊達が他世界に逃げて行っています。そこであなたに救いを求めました」


 倒れそうだ。


「神様はいますか?」


「説明不要とのことで、今回は会わないそうです……」



「マジですか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空間魔法が当たり前の世界 信仙夜祭 @tomi1070

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ