第49話 勇者との会話

 勇者は、極大魔力を込めた、【空間切断】の一撃を放って来た。

 これを受ければ、自分は塵も残らないだろう。

 そして『虚空のダンジョン』に向けて放たれれば、ハルカ達はこの世界との繋がりが消えて亜空間を漂うことになるだろう。

 いや、ダンジョンを踏破されてハルカを殺害に行くのかな?

 自分はそれを黙って見ていた。


 勇者の一撃が放たれる瞬間に、勇者の剣が弾け飛び、勇者の両腕が吹き飛んだ。


 まばゆい光と轟音が、自分を襲った。ゴーグルは、サングラスだったので目は大丈夫だが、耳が痛い。しかし、この閉ざされた空間は、あれだけの魔力が暴発しても壊れないのか。

 以前、虚空のダンジョンの七層を騎士が壊そうとして来たことがあり、それを迎撃した。勇者の【亜空間創造】は、強度が違うな。ダンジョンとは概念が異なるのだろう。まあ、空間魔法の最強の使い手なのだ、これくらいは当たり前なのかもしれない。


 勇者は、爆発に巻き込まれて、両腕を失っていた。そして、地面に膝を付いた。混乱している様だ。

 まあ、ネタは簡単だ。『サンダーバインド』で小さな傷が多数出来ていたのである。それと、『ブリザドバインド』で熱を失った剣に、大量の魔力を送り込んだのだ。いかに勇者が持つ剣といえども、その状態で勇者の膨大な魔力を込めて膨張させればれば、それは壊れるって。

 まあ、単純な物理だな。いや、使い古されたネタだ。


 でも、腕を失っても蹴りで【空間切断】を発動させて来るかもしれない。

 近づくのは止めよう。近接戦闘には自信がないのだ。トドメをどうしようかな……。

 そんな事を考えている時であった。


「ワレの負けだ……」


 勇者が座り込んだ。そして、風景が元に戻った。

 ここでの降参は予想外であった。まあ、この勇者を討ち取っても目的を達成出来るわけではないのだが。この世界の問題の原因ではあるのだけど。

 さて、この後どうするか。



 定空珠内で、勇者の回復を待とうと思ったのだが何もしないな。出血多量で死ぬぞ? いや、回復方法が無いのかもしれない。さっきの一回だけか、もしくは、宝具が壊れたのかな?


『ハルカ。ポーションをください』


『勇者を助けるの!?』


『助けますよ?』


 ハルカが黙ってしまった。気持ちは分かる。ハルカを殺しに来たのかもしれないのである。

 だけど、話がしたい。この勇者次第で、この世界が変わる。


 数秒の後、ポーションが送られて来た。

 ハルカは、ご機嫌斜めだろう。後で何かごますりしないとな。


 勇者にポーションをかけると、傷が即座に治った。失った腕さえ生えたのである。ハルカは、こんなのまで作れたのか。

 もうちょっと、ダンジョンマスターの能力を把握しておくべきだったな……。


 まあ良いや、勇者に疑問を投げかけてみるか。


「もしかしてですけど、歴代の勇者の記憶を受け継いでいますか?」


 精霊の話からの推測や、自分を異世界からの転移転生者だと見破ったこと。

 ありえない知識量からの推測だった。


「……ああ、正解だ。王家は、知識と技術を伝承する宝具を作り出してな、代々の勇者はそれを受け継いでいる。もう少し詳しく言うと、九十年前から勇者は同時期に二人存在してる。ワレと人族の最高の魔力を持つ者だ」


「なぜ、二人なのですか? それと今の話では、あなたは九十歳以上になりますよね?」


「ワレは、ほとんどの時間を〈時間停止〉で眠っている。国の危機のみ起きているのだ」


 この人が最終兵器なのは分かった。

 でも何でそんな面倒なことをしてるのだろうか? 強すぎて警戒されている?


「途中で勇者が死亡した場合は?」


「その代の勇者の記憶が継承されないだけで、次の勇者に引き継がれるだけだ。それと、氷魔法と雷魔法は、記録が無かった。ここまでの威力だとは思っていなかったよ」


 自分が使ったのは、厳密には魔法ではないのだけどね。

 ここは黙っておこう。


「まあ、精霊に頼まれていると言うか、好かれているのでね」


 実は、氷魔法と雷魔法はショボいのです。でも、それも黙っておこう。


「これからどうする? そなたが次の勇者となり、人類を導くか? そうすれば、四大精霊も機嫌を取り直すだろう」


 少し思案する。


「他のダンジョンマスターにも、四大属性の指輪の作り方を教えるので、国中に伝えて貰っても良いですか?」


「何が目的なのだ?」


「精霊が怒っているそうです。魔力を直接変換する空間魔法しか使わなくなった人族に。自分はそれを伝えるために呼ばれたみたいです」


「……その前に、ネタばらしを頼みたいのだが」


「え~と。厳密には、自分には魔法以外の力があります。分類として『魔法ではない』が正しいかな。自分の前の世界では、スキルと呼ばれる能力に分類されます。先程の空間は、属性魔法と空間魔法のみ使用出来なくなるみたいですけど、新規に開発した力には対応出来なかったみたいですね。それとあなたの剣に、細かい傷を着けただけですよ。元々、電撃と氷により罅が入っていたので、それを大きくしただけです」


 自分のバインドは、精霊を介さないので魔法ではありませんよ。空間魔法ともちょっと違います。

 自分の話を聞いた勇者が崩れ落ちた。


「なるほどな、未知の力だったか。初代勇者と同じというわけか」


 初代勇者と同じにされてしまったか。まあ、新規開発と言えば同じかな?

 さて、この勇者をどうすれば、精霊の機嫌取りが出来るかだ……。


「残りの人生ですが、空間魔法を使わないでください。四大属性魔法のみで生きて行ってください。もしくは、氷魔法と雷魔法を含めた六大属性魔法ですかね。それで終わりにしましょう」


「殺さないのか?」


「勇者の知識は、継承されなければならないのでしょう? 宝具と言いましたか? この世界の為に、もう少し生きてください」


「そなたは、何が目的なのだ?」


「先ほども言いましたが精霊の機嫌取りですね。今日のところは、勇者が六大属性魔法に負けたことを、国中に宣伝して貰って、空間魔法だけでは無敵でないことを伝えて貰いたいです。あ、自分の未知の力は秘密にしてください」


「要領を得ないのだが?」


「とりあえず、人族が優位を持つ世界は止めてください。他種族も受け入れて『この世界の柱』を大事にしてください。そうすれば、精霊も機嫌を直してこの世界を豊かにしてくれるでしょう」


「……、人族による統治の解体か。難しいがやってみよう」


「あ、六大属性魔法で実現してくださいね。そうすれば、精霊達の機嫌も良くなると思います」


「……分かった」





 その後、勇者との雑談を始めた。

 何でも、農村の生まれでありながら、幼少期より魔法が使えたらしい。そして、突然前世の記憶が蘇ったとか。気が付くと、角が生えており、体も変化して行った。そして、〈鬼人〉になったらしい。転生になるのかな?

 人族の中では、全ての成績で一番となり、勇者に選ばれたと……。しかし、先代の勇者よりも強すぎたのでずっと封印されて寝ていたってのは理解出来なかった。封印を受け入れるために出した条件も教えてくれないし。


「一番の成績を収められたのですが、うやらましですね。自分は何も一番は取れなかった」


「戦闘機械のような生活は、結構地獄だぞ? 初めは、読み書きすら教えて貰えなかった。そして、共に見い出され育った同僚が次々に魔力暴走を起こし、死んで行く。勇者に選ばれてからは、それこそ地獄だった。傲慢な態度も取れず、王族貴族に頭を下げる毎日だったよ」


 そんなものかと思ってしまった、前世の傑物はそれを嫌って孤独でいたのかもしれないな。


「何が必要だったと思いますか?」


「心許せる友が欲しかったかもしれない。もしくは、ライバルかな」


 そうなのかな? そうかもしれないな。孤独は辛い。まあ、前世の傑物は、彼女を作っていたが。

 あの傑物と胸を張って会うためには、何か誇れる物が必要と思っていたが、違うかもしれない。

 心許せる友か……。


 苦笑が出た。


「最後に確認です。六大魔法の使い手に負けて、属性魔法の有用性を国中に広めてください。そして、他種族との友和に努めてください」


「うむ、分かった」


 そこで、真っ白な空間に飛ばされた。多分、【転移】だと思う。

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