第48話 勇者との戦い2
黒い光が、辺り一帯を飲み込んだ。
そして、黒い光が飲み込んだ空間から、光が再度入って来る事ははなった。
隠れ蓑にしていた森も消えてしまった。
今は、真っ黒い空間で勇者と二人で対峙している。
「一応、説明して貰っても良いですか?」
「……聞いてないのかな? 勇者の称号を持つ者だけが使える空間魔法だよ。【亜空間創造】と言えば伝わるかな?」
要は、ダンジョンマスターと同じ能力か。
定空珠を起動させるが、抑え込まれてしまった。
定空珠は、魔力を空間に作用させるのを阻害するように作った。〈完成された空間〉には、干渉出来ない。
ネタばらしすると、低空珠は空間魔法の発動を抑え込み、発動された空間魔法を減衰させる物だ。範囲外からの物量攻撃に弱い……例えば、【空間断絶】を事前に百撃作られていた場合は、その解除の為に自分の方が先に魔力が尽きるだろう。ダンジョンという狭所であれば、気にならない欠点だったが。
それと最も厄介だと思っていたのが、圧倒的な技量を持った空間魔法使いだった。長距離から命中率の高い【空間切断】を連発される事を恐れていた。追尾機能とかも怖そうだ。
「そろそろ考えは纏まったかな?」
勇者が、自分の様子を察して声を掛けて来た。
まずいな。予想外すぎて対応策が思い浮かばない。
とりあえず、弾幕用の風魔法を起動さてみた時だった。
「風魔法が、発現しない!?」
思わず、独り言をこぼしてしまった。
勇者が笑う。
「君は本当に何も知らないのだね。この空間は、四大属性の精霊の立ち入れない空間だよ。そして、空間魔法も使えなくなる空間。私以外はだけどね」
「ご説明ありがとうございます。謎が解けました」
魔力をフィジカル強化のみに切り替える。
それと、開戦前に聞いてみるか。勇者は口が軽そうだし、答えてくれそうだ。
「歴代の勇者は、この〈四大属性の精霊の立ち入れない空間〉を作り出していたのですか?」
「うん? 興味が出てきたみたいだね。【亜空間創造】は、勇者の特権だけど、どんな効果を付与するかは歴代の勇者それぞれ異なるのだ。私は、〈相手を無力化する〉空間を選んだと言えば伝わるかな? 先代の勇者は、それこそダンジョンのトラップ部屋を作ったそうだよ」
唐突だけど、謎が解けました。
精霊達が、この世界を嫌がって逃げて行っているのは、この勇者のせいじゃないですか!
多分この勇者は、精霊と会話が出来る資格を持った人のはずだ。
だが、精霊達はこの勇者に声を掛けなかった。『この世界の柱』になる人物が、精霊達を使わない存在だったのだ。
精霊達を最も使える者が、使わないのだ。
精霊達はその矛盾に耐えきれずに、逃げ出していたのか。
「ふぅ~」っと息を吐いた。
「そろそろ良いかな?」
勇者が、最後の言葉を自分に投げかけると【飛翔】して制空権を取りに行った。
◇
勇者は、上空で【空間断絶】の足場を作り、そこに降り立った。これから、【空間切断】の雨が降り注ぐだろう。そして、自分が被弾したら【瞬間移動】で止めを刺しに来る。
この勇者も自分と同じだ。単純な魔法を選んで相手の選択肢を奪って行く。
定空珠と属性魔法を奪われた自分は現在無力と言える。だが、この勇者には、まだ自分の情報が正確には伝わっていないのだろう。
自分にはバインドが、まだある……。それと、この空間の欠点も把握した。
【空間切断】の砲撃が始まった。砲撃の雨が自分を襲う。
疾走しながら砲撃を避けて行く。とにかく全力で走る。
──ドン
何かにぶつかって足が止まる。【空間断絶】による見えない壁であった。
迷っている暇はない。
「エアロバインド!」
一時的に傘を作り、砲撃を防ぎ、再度移動する。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
短時間だが、全力疾走して息が切れて来た。
勇者を見ると驚愕の表情で自分を見ていた。
「おかしいな? 今ので仕留められないとか……。君にはまだ何かありそうだね」
砲撃を止めて、話しかけて来るとは余裕だな。
ここから反撃だ。
「
奥の手その1。雷帝に会いに行った時に、雷の精霊が自分に憑いて来てくれた。雷魔法であれば、この空間内でも使えるだろうが、練習していないので、今回は、バインドで対応だ。
勇者を静電気が襲う。静電気が弾けた場所の物質が分解を始めた。
サンダーバインドは、指定空間内で静電気の火花を起こし、その火を受けた物質の結合を解く。サンダーバインドの空間に居続ければ、どんな物質も粉微塵になるように創造した。ただし、時間はかかる。
勇者は、装備が壊れて行くのを確認するとその場から離れようとした。だがそこは、サンダーバインドの領域内だ。【空間魔法】は使えない。
勇者は、【飛翔】しようとしたが、そのまま落下した。まあ、地面に激突する前には、再び浮かび上がったのだが。
勇者が混乱しているので、さらに追撃だ。
「
奥の手その2。大気中の水分を凍らせる。吹雪を起こさせて、雪というか小さな氷を勇者にぶつけた。
ブリザドバインドは、氷魔法とイメージが被るかもしれない。属性的に相性が一番良いのだろう。
勇者は、【空間断絶】で防御して来たがバインドが付与された氷が当たると空間魔法は解除される。勇者は次々に【空間断絶】の〈盾〉を作って来たが、氷の方が数は多い。
勇者は次第に凍り付いて行き、最後には氷の彫刻になった。
だが、黒い空間は解除されない。
自分に油断はない。最後は、直接触ってのウォータバインドかな? 手をかざして突撃準備をした時だった。
──ジュワ~
「え?」
一瞬で勇者を拘束していた氷が無くなった?
「ふぅ~。驚かせてくれる」
余裕だな。マジで手強い。
「もしかして、電気分解ですか?」
「ほう? 知識があるのか。やはり君は異世界からの転移転生者なのだな」
余計な情報を与えてしまった。つうか、この勇者は、科学技術の知識があるのか。本当に何者だよ。
「……そろそろ終わりにしようか」
勇者が両手で剣を振り上げた。
ありえないほどの魔力が剣に集まっている。オリジナルの属性の指輪以上の魔力だ。
最後は、極大魔力を纏った空間魔法の攻撃か。
あれが放たれるとこの空間にいる生物は粉々だろうな……。
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