第47話 勇者との戦い1
──ビュン
勇者からの一撃で、戦闘が開始された。
勇者の装備は、ショートソードの剣と盾だ。ショートソードを突きの形で自分に切っ先を向けて来て、【空間切断】を飛ばしてくる。
問題なのは、その数だ。必殺の一撃を秒間数発の連打で撃って来ないで欲しい。
「エアロバインド!」
回避しながら、空気の壁でダンジョンの入口を守る。
勇者は、【空間切断】が無効化されると驚いていた。だが、迷っている時間はない。
ここは、超短期決戦だ。
「アースバインド!」
勇者の足が止まった。
ここで異変が起きる。ハルカが、ダンジョンの周りを再度ダンジョン地下一層にしてくれたのだ。そして、空からテオドラの酸性雨が降り出した。
勇者は即座に反応し、自分を囲むように【空間断絶】を展開した。360度の死角のない防御壁。
これは予想通り。絶対防御を持っているのだ。予想外の攻撃が来れば、全方向を守るだろう。
ハルカとテオドラのおかげで、勇者の選択肢を奪えた。
ちなみに自分の装備は、防水加工されているので、酸性雨の影響はほぼ無い。ちょっとピリピリするけど。
「ウォータバインド!」
勇者を囲むように濡れた雨が固まって行く。地面も固まって行った。そして、この水から出る空間魔法は存在しない。この水に囲まれると、【転移】も【転送】も阻害される。
念には念を入れて、定空珠も起動させている。
これで完全に拘束出来たはずだった。
だが、次の瞬間その期待が裏切られた。
──ピシ
固まった水の割れる音を聞いて、その場を飛び退いた。ただただ、反射しただけだった。
次の瞬間見たのは、火魔法を纏った斬撃だ。火魔法と空間魔法の併用かよ。
自分のバインドは、同属性の魔法で消えるが、他属性の魔法でも解除が出来るのか。
バインドは同属性で消える事を想定していたが、他属性で消えるとは思っていなかったのが本音だ。攻略は自分の十八番と思っていたが、逆に攻略されて、悔しさがこみ上げた。
ウォータバインドは、火魔法が襲いかかると徐々に侵食されて消えてしまった。アースバインドも間もなく解除されるであろう。
自分がこの隙に距離を詰めようとすると斬撃が飛んで来た。
避けた勇者の飛ぶ斬撃がダンジョン入り口に当たり、亀裂が入る。それを見てグッと奥歯を噛みしめた。
まだ、虚空のダンジョンは大丈夫なはずである。とりあえず、ダンジョンの入口から離れる様に距離を取り、森に身を潜めた。
勇者は、火魔法を得意としていると思われる。そうなると『ウォータバインド』が、勝敗の決め手になるかな。
勇者対策を考えていると、【念話】が飛んで来た。
『大丈夫だよ。戦闘に集中して』
ハルカからの応援が来た。正直ありがたい。とてもやる気が出た。
いや、戦闘を楽しんでいる自分がいる。命のやり取りをしているというのに。アドレナリンがドバドバの自分が嬉しく思った。
勇者が、全てのバインドを破壊して出てきた。アースバインドも解除されてしまったのか。
反射なのか考えているのか……、とにかく面倒な相手である。少しは焦って欲しいな。
テオドラの酸性雨が強くなり勇者を襲う。装備が溶け始めたが、勇者は気にしていなかった。
「ウォータバインド!」
すかさずの追撃だ。足元の水溜りを伝わり、勇者が一瞬止まる。
だが、すぐ火魔法を使用して、解除して来た。炎を纏い、雨と水溜りを蒸発させて来たのだ。
だが、その一瞬で十分だ。
「ファイアーバインド!」
視認していれば、対象に発現出来るバインドだ。本来は、範囲殲滅用に用意していたのだが、結局単体に使用となった。
単体に使用すれば、体温の発熱を阻害する。発熱出来なければ、徐々に体に変調をきたすだろう。状態異常系の対生物最終手段だ。体の深部体温が急激に下がって行くのである。一分と持たずに意識を失うはずであった。
これで終わったと思った。
◇
数秒だが、勇者の様子を伺った。全く動かない。体の変調に気が付いたのだろう。
いや、ファイアバインドは実戦で試していなので、数秒で死亡した可能性もあるか?
『ハルカ。勇者をダンジョンに取り込む事は出来ますか?』
『無理! まだ生きているわ!!』
視線は外さなかったが、意外な言葉に驚いた。
あの状態で生きている? 確実なのは、直接触れて『ウォータバインド』だが、かなり危険だ。
テオドラの酸性雨で事切れるまで待つことにした。
時間にして一分だろうか。勇者はまだ生きている。だが、動かない。
何かがおかしい。警戒は解かずに観察していた。
その時だった。
勇者が動いたのだ。
勇者が光ると、急速に傷を回復し始めた。
『ハルカ。あれは何ですか?』
『分からないけど、回復魔法かもしれない。もしくは、定空珠みたいな宝具かも』
宝具を持っているのか。ダンジョン産か? いや、百年前の勇者が残した物かもしれない。
こうなると、待ったのは失敗となった。直接触って止めを刺すべきだった。
勇者は「ふう」と息を吐き、傷を全回復していた。テオドラの酸性雨によるダメージも回復してしまったみたいだ。
まずいな。もう手がない。
「ここまで追い詰められるとは思わなかったよ。でも、弾切れかな? それでは、終わりにしよう」
勇者が、右手を空に掲げた。
そして、黒い珠の様な物を生み出した。考える、あれも空間魔法だとしたら……。
思案していると、ハルカから【念話】が飛んできた。
『勇者が亜空間を作ろうとしているわ。ダンジョンを作るのと同じだと考えて!』
『もう少し詳しく!』
そこで、勇者の作った珠が、弾け飛びこの一帯を飲み込んだ。
ハルカとの念話は、そこで途切れた。
勇者は、右手を下げて、自分に正対した。
ダメだな、後手に回っている。油断はしていなかったのだが、レベル差に怖気づいたことをちょっぴり後悔といったところか……。近づいてトドメを刺しておけば良かったな。
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