第46話 勇者の来訪

「ねえ、ソラ。最近起きてからは、拡張現実〈AR〉ばかり見てるね?」


 ハルカが声をかけて来た。


「うん、そうだね。ちょっと異常を感じたから警戒しているんだ」


「異常があるの?」


「この数日は、騎士が来ないでしょう? 前は毎日来ていたのに」


「それは、そうだけど。それが異常なの?」


「うん。明らかに異常だね……。街の様子でも見に行きたいところかな」


「それならば良い魔物がいるよ」


 ハルカが鳥を一匹召喚した。雀かな?

 そして、新しい拡張現実〈AR〉を発現して説明してくれた。視覚共有か、これは使えるな。

 でも、こんなの作って大丈夫なのだろうか?


「最近気にしていなかったけど、ダンジョンポイントは十分にあるの?」


「う~ん。まあ、ダンジョン一層分を作るくらいならあるわよ。でも、属性の指輪を作り続けているので大分減ってはいるかな。冒険者も来なくなっちゃったし、供給が足らないかもしれないわね」


 少しハルカに負担をかけすぎたか。魔物でも狩ってポイントに換算した方が良いかもしれないな。


「大丈夫だよ。本当に足らなくなったらキチンと言うから」


 ハルカ、さまさまである。

 早速、近くの街に雀を放った。雀は数十分で街に着く。そして、街の様子を映像として送って来た。


「……騎士が見当たらないな」


 独り言が出た。

 本当に王都に騎士を集めているのだろうか?

 それと、先日寄った時よりも冒険者の数は減っている。怪我が癒えて帰ったのだろう。属性の指輪は騎士が独占しているのだし。

 そんなことを考えている時であった。



 ダンジョン地下一層に、隕石が落ちた。

 そのまま、ダンジョン地下一層の岩盤は崩れ落ち、ダンジョン地下一層の権能は消えてしまった。


 そして、ダンジョン一層の入り口が地上に墜落した。

 ついに来たか。

 つうか、眼を放した時に来ないで欲しい。


「ソラ、なにが起きたの?」


 ハルカが慌てて話しかけて来た。


「空間魔法の【収納】による攻撃ですね。山かな? 山一つを【収納】に入れて上空から落として来たのでしょう。ダンジョン地下一層は、亜空間ではないので、単純な質量で壊せますしね」


「なんでそんなに落ち着いているのよ!」


「多分ですが、数分前にダンジョン地下一層に誰か入りませんでしたか?」


「え? 一人来たけど……」


「十中八九、勇者ですね。鬼人の勇者でしょう」


 絶句する、ハルカ。

 これからが本番であり、最後の戦いになるだろう。


「ハルカ、質問です。ダンジョンの入口を壊された場合はどうなりますか?」


「え? え~と……。多分だけど、ダンジョンはこの世界との繋がりが消えて亜空間を漂うことになるかな?」


 そうなると最悪だな。ハルカとテオドラはこの世界に絶対に必要だ。二人がこの世界からいなくなれば、精霊全てが他世界に逃げて行く可能性もある。


「ハルカ。ダンジョンの入口をもう一つ作ることは可能ですか?」


「無理無理。それは、ダンジョンのルールに抵触するの!」


 勇者が、ダンジョンの入り口に近づいて来た。

 ダメだな。打てる手段は、一つしかない。


「ハルカ。急いで自分をダンジョンの入口に飛ばしてください」


「……」


 ハルカは、諦めたらしく無言で指示に従ってくれた。





 ダンジョンの入口で、定空珠を起動させる。そして、侵入者を待ち受ける。

 やりたくはないが、正面戦闘だな。ヘルメットとゴーグルを付け直して、気合を入れた。


 少しすると、誰かがダンジョン入り口に近づいて来た。まあ、勇者だよね。

 こちらに気がついたのだろう、少し離れた位置で立ち止まった。

 定空珠の範囲外だ。定空珠の情報が洩れている? いや、何かしらのスキルかもしれない。【探索】とかあるのかもしれないな。


「こんにちは。勇者さんで合っていますか?」


「……驚いたな。ダンジョンマスターが自ら出てくるとは」


 話した感じでは、少し年上かな? 少年とかでなくて良かった。

 外見的特徴は、2mくらいの身長と筋骨隆々のガタイ。そして額からは角が生えていた。

 人族ではないな。これが鬼人族? いや、今は種族などどうでも良い。


「え~と、自分はダンジョンマスターではありませんよ」


「む? そうなのか? では何者だ?」


「神様に依頼された者です。元日本人と名乗っています」


「そうか、各地で起きている混乱は、君が原因だったのか」


 混乱か。まあ、各地で騒ぎを起こしたのだ。王様とから見れば、革命とか反乱の首謀者に見えるか。


「この世界の為になることをしているのですけどね。まあ、現体制は好まれていないと思ってください」


「神様がどの様な存在かは分からないが、百年かけて築き上げた文明を捨てる気はないぞ?」


「精霊が怒っているそうです。もっと四大属性魔法を使って欲しいらしいです。それと、氷と雷の精霊が他世界から来ました。勇者指導で広めて貰えませんか?」


 勇者はため息をついた。


「そうか、精霊が原因だったか。なるほど、魔力を持つ者が少なくなって行く理由が理解出来たよ。そして、このダンジョンから出て来る属性の指輪は君が考えたのだね?」


 僅かな言葉で、推測を立てたのか。頭も切れそうだ。


「魔力の有無は、生まれで決まると聞いたのでその対策ですね。それと空間魔法は嫌われているみたいですよ?」


「なるほど、なるほど。差別されていた者に力を与えて、内乱を起こそうとしたと。人族が同士討ちを行っている間に多種族を保護して人族の統治を崩す算段だったと」


「初めはそうでしたが、世界を周ってみて気が変わりました。精霊は、人族との共存も望んで来ました」


「分からないな。百年前の日本人は、エルフ族の独裁体制を崩す者として送り込まれたと伝わっているのだが」


「百年前の人と自分は違う役目を与えられているみたいですね。自分は人族の統治が続いても良いと思っています。ただし、多種族を隷属するのは好みません。共存共栄を望みます」


「それは理想だな。戯言としか捉えられないぞ」


「そうですか? かなり昔は獣人族と人族は共存していたのでしょう? 無理ではないと思います」


「百年前の事を知っている者などおらんよ。今の獣人は、人族の保護なしでは生きられないほど文化に差が出来てしまった。それと隷属と言ったが、獣人のみで作られた街が最後どうなったか知っているのか?」


「へえ。そんな事もあったんですね。その言い方からすると失敗したみたいですけど」


 ため息をついて、勇者が剣を抜いた。


「鬼人の勇者として、貴殿を討ち取らせて貰う」

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