闇夜の猫

雨世界

1 ……ただいま。今、帰ったよ。

 闇夜の猫

 

 登場人物


 福田霧 黒髪の少女 十六歳


 幸田雪 死神の少女 享年 十六歳


 プロローグ


 夜に迷う。


 本編


 ……ただいま。今、帰ったよ。


 あなたの思い出


 ……一度壊れたものは、もう二度と元の姿には戻らない。……それが、あなたの口癖だった。


 夜の街


 黒い猫と出会う。


 私たちの手は、ずっとつながっている。(それはとても幸せなことだと思う)


 世界には、とても冷たい風が吹いている。

 真っ暗な空からは、真っ白な雪が降り始めた。

「ほら、見て、雪だよ、雪。綺麗だね、お母さん!」そんな雪を見てはしゃぐ女の子の声が聞こえる。

「寒くない?」

 誰か知らない男の人が言う。

「ううん。大丈夫。全然寒くないよ」とにっこりと笑って誰か知らない女の人が言った。


 福田霧はそんな幸せそうな人たちを横目に、無表情のまま、たった一人で夜の街の中を歩いていた。

 霧は真っ黒な学校の制服の上に、やっぱり真っ黒な色をしたダッフルコートを着ている。首元にはふかふかの真っ白なマフラーを巻いている。


 ほっそりとした霧のその白い二本の足は止まることなく動き続けている。

 夜の闇の中を。

 明るい街の光から逃げるようにして、霧は歩いている。


 ときどき、吹く冷たい冬の風が霧の短い黒髪を揺らした。降り出した白い雪が、霧の黒髪の頭の上に、少しだけ積もっている。(霧はその雪を払うことなく、街の中を歩き続けている。


 霧の目指している場所は、ある高いビルの屋上だった。本当なら鍵がかかっているために絶対に入ることができない場所なのだけど、その夜の時間は、話に聞いていた通りに、ビルの入り口と屋上の鍵は開いていた。(警備員さんもいなかった。いや、いるのかもしれないけれど、霧は出会わなかった。ビルの中は無人だった。まるで人の気配がしなかった)

 

 霧がそんな場所に向かった理由。

 それは、最近出会っら『ある一人の不思議な少女』ともう一度、会うためだった。


「あ、ようやく来たね。こなくてもいいよ、と言ったけど、君なら絶対にくると思ってたよ」


 ビルの屋上にやってきた霧を見て、先にビルの屋上に着ていた一人の少女が、とても嬉しそうな声でそう言った。


 少女の名前は幸田雪と言った。

 雪は霧に『私は実は死神なんだ』と出会ったときに話していた。その話は本当のことだった。

 嘘でも冗談でもなくて、雪は正真正銘の本物の死神だった。(霧を迎えに来た、死神だった)

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