第7話 社畜サンタは大忙し
「サンタさん、お願いです……僕に休みを下さい」
「バカなこと言ってないでキリキリ働けー、新米サンタ」
「僕にはちゃんとジェイミーって名前があるんです!」
憤る彼に対し、先輩サンタは肩を竦めるだけだった。
12月に入りクリスマス準備は佳境に入る。全世界からプレゼントの依頼が入り、サンタ達は準備に大忙しだ。
3つ向こうのデスクではプレゼン目録がぐちゃぐちゃだと付け髭を振り回して怒り狂うサンタ、斜め向かいでは包み紙の選定に頭を抱える几帳面サンタ、窓の外では有り余る元気のせいで暴走するトナカイを必死に捕まえる焦ったサンタの姿が見えた。
こんなしっちゃかめっちゃかな状況でも、24日の夜には皆文字通り聖人になる。
光よりも早く移動し、僅か120人たらずのサンタ達は一晩で世界中の子供達の元にプレゼントを届けなければならない。
けれども彼らはその日一日だけは心の底からプレゼントの配達に悦びを感じ、常に内から湧き出る笑顔で過ごす。誰に見られなくとも、彼らはサンタという職業を誰より誇りに思っていた。
「ジェイミーは何だってサンタになったんだ? 正直給金もないし楽な仕事じゃな
いだろう?」
包装作業の傍ら、隣で目録の確認を行っていた先輩サンタがふと聞いた。
「よくある話ですよ。子供のころサンタを見たことがあるんです。欲しい物は親に
だって明かさなかった。あの頃は存在を信じてなくて、本物ならわかるはずだって
意固地になってたんですよね」
「そりゃあ……調査部門が難儀しただろうなぁ」
大体の子供が欲しいものは親を経由してサンタ協会にリストが届けられるのだが、たまにジェイミーのようなケースがある場合欲しいものを調査する専門の部門がある。
「それで何としてもサンタの正体を暴いてやる!って24日の昼間友達の誘いも全
部断ってずっと寝ていたんです。それでも子供ですよね、夜中ウトウトしてきちゃ
ったんですよ」
「意気込みが凄いな」
笑い声はどちらの口からも小さく漏れた。
「それで椅子で居眠りしていた僕に、ずっと欲しかったかっこいいジャケットをサ
ンタがかけてくれたというわけです。声を上げようとした僕にしーっと言って、彼
は妹の部屋に向かっていきました」
「粋なことをしたサンタもいたもんだなぁ」
「それからですかね、僕の夢はサンタになりました」
よし終わり、とジェイミーは小さく呟いて包装の終わったプレゼントの山を見た。
ここには世界中の子供たちの願いが詰まっている。中には物では叶えられない願いを持つ子もいて、物しか送れないサンタ達も歯がゆい思いをすることもある。
けれども多くの笑顔のために、彼らは多忙な日々を乗り切っている。
「だから忙しいけど楽しいですよ。名前を憶えてるくせに呼んでくれない天邪鬼な
先輩がいてもね」
彼は笑顔でそそくさとその場を離れた。先輩の反応を見る気はなかった。
あの日ジャケットをかけてくれたことを彼が覚えていようがどうでもよかった。
けれどサンタとして初めて会った日、彼は知らないはずの名前をうっかり呼びかけた。
その思い出だけで、ジェイミーはあの日感じたジャケットの温かさを心の内に思い出せるのだった。
お茶一杯分の短編集 二見 遊 @seika_hiryu
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