第60話 これからも続く冒険者生活

 アルは冒険者ギルドに入ると、レネオが自分へ手を上げているのを見つけ、皆のいる席に向かった。


「アル、お帰り」

「お帰りなさい」

「分け前どうだった?」


 エリーが一番大きな声で迎えてくれた。


「なんだよエリー、いきなり分け前の話かよ……」

「だってボス戦だったんだぜ。ちゃんと貰ったのか気になるじゃん!」


「まあ気持ちも分かるけどさ……。ほら、ちゃんと貰えたぜ」

 アルは二種類の魔鉱石をテーブルの上に置いた。


「おっし、よくやった! へえ、ゴブリンロードの魔鉱石は赤いのか! いつものは黒っぽいのにな」

 エリーがすかさず手に持った。


「そういえば、落とすモンスターの種類で色が決まってるって、ジャンさんが言ってたかもね」

 残った魔鉱石(ホブゴブリン)を摘まみながら、レネオが言った。


「黒も赤も綺麗ですが、他の色も見てみたいですね」

 シンシアは二人が持っている魔鉱石を両方とも手渡されると、少し覗き込んでからテーブルの上に戻した。


 アル達は、戦利品の魔鉱石をどうするか話し合うために集まった。


 魔鉱石(ホブゴブリン)は一つではどうにもならなかった。

 クエストも三個以上集めるものだけしか見たことがないし、武器や防具に魔法付与として使うにも、最低三個は必要だ。


 魔鉱石(ゴブリンロード)は貴重な物だけあって、一つでも十分選択肢があった。

 ジャンに確認したところ、冒険者ギルドでは金貨十枚で買い取っていて、魔法付与として使えば強力な武具に生まれ変わる。

 また、ジーンが言っていたとおり、グレスリング協会に持ち込むと希少な魔法具と交換をしてもらえる。


「金貨!!?」

 エリーが目を丸くした。


「ああ、さすがにビビるよな」

 アルは、もっともな反応をしているエリーを見ながら言った。


「なあ、なあシンシア! 金貨十枚って、銀貨何枚なんだ?」

「そうですね、金貨一枚で銀貨百枚だから、銀貨千枚ですね」


「せっ……、せっ……、せっ……」

 エリーは息が詰まって最後まで言えなかった。


「それだけの価値がゴブリンロードにはあったってことだよね。正直、僕らのレベルじゃ何人いても勝てそうになかったし」

「やっぱそうだよなー」

 アルはレネオの話に頷いた。


 結局、今回の戦利品は扱いを保留することになった。


 魔法石(ホブゴブリン)は次のクエスト時にでも一緒に使うことに。

 魔鉱石(ゴブリンロード)は、すぐにお金が欲しいってほど困っているわけでもないので、魔法具にしようという話になったが、自分たちに必要な物が何なのか判断つかず、時間をかけて考えることとなった。


「ちぇっ、まあ仕方ねえけど……」

 エリーは金貨が諦めきれない気持ちを、必死で抑えて言った。


「ゴブリンロードの魔鉱石は、持ち歩くにはあまりにも高価な物だから、銀行に預けるのが良さそうだね」

 レネオが皆に提案すると、

「銀行!?」

 三人が口を揃えた。


「うん。お金とか高価な物を預かってくれるとこ。全財産をいつも持ち歩くわけにはいかないから、冒険者はとくに必要な場所だよね」


「たしかにな。ずっと持ち歩いてたら落としそうだし、部屋に残しておくのは心配だよな」

 エリーが納得して頷いた。


「銀行かぁ。ザレア村と違って、大きい町はそんなのもあるんだな。よし、それでいこう!」

「銀行を使うようになるなんて、私たちもずいぶん大人になった気がします」

 アルもシンシアも銀行を利用することに賛成した。


 アル達四人は、話し合いを終えると、銀行に魔鉱石を二つとも預け解散した。


「なあレネオ。今日のボス戦は楽しかったな!」

 アルはクスノキ亭に戻る道中、赤い夕暮れの空を見ながら言った。


「そうだね。すごく怖かったけど、それ以上に楽しかった!」

 レネオも空を見上げた。


「ボス戦なんて知らなかったし、俺らだけじゃ絶対倒せなかったよな」

「うん。もし知らずに四人だけでボス部屋に入ってたら、どうなってたか分からなかったね」

 二人とも、想像したら少し寒気がした。


「ああ。あの時ジーンの兄ちゃんが声を掛けてくれたから、今日みたいな経験ができたんだよな」

「ジーンさんと出会えたおかげだね」


「俺たち、ブライアン先生の冒険話を聞いて、こんなことやりたくて冒険者になったんだもんな。冒険者なんだって、すげえ実感するぜ」

「うん。退屈な日も大変な日もあったけど、冒険者になって良かった!」


 アルとレネオが二人で始めた冒険者生活。

 二人だけで始め、二人で立派な冒険者になってやろうとザレア村を出た。


 でも二人だけではなかった。

 ブライアンと出会い、デニスやスパーノ、ジーンやハーマンに出会った。そしてエリーとシンシアにも。


 自分たちだけじゃ、きっと何も出来なかった。

 誰かと出会い、誰かの力を借りることで、ここまで進んでこれたんだと、アルもレネオも思うようになった。


 そしてこれからも、新しい出会いが新しい冒険を生む。

 二人はそう確信していた。


「よし、明日からも頑張っていこうぜ!」

「うん、僕らの冒険は、まだまだ始まったばかりだからね!」


 アルとレネオは足早にクスノキ亭を目指した。

 明日からまた、冒険者の日常を続けるために。

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彼らにとっては異世界じゃない物語 ~グレスリング王国の冒険者たち~ 埜上 純 @nogamix

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