第59話 ゴブリンロード戦③

 スリープ魔法の効かないゴブリンロードに対し、レネオはフレイムアローだけを繰り返し唱えた。

 魔法を唱えては、インターバルの完了を待って即座に唱える。

 攻撃だけに集中した。


 一方、シンシアはガードの魔法をアルとエリーへ順番に掛けると、ガードの効果が切れる前に上書きできるよう、インターバルの完了と共にガードを唱えるようにした。

 その合間を縫って、アルかエリーが攻撃を受けたら即座にヒールを掛けるのも忘れないよう、しっかり二人の戦いを観察する。


「俺たちはひたすら攻撃だ!」

 言葉のとおり、アルはもう退くこともなく、ひたすら攻撃を続けた。

 エリーもそれに続き攻撃を仕掛ける。


 それでもゴブリンロードの攻撃は、アル達に向くことはなかった。

 ジーンもハーマンも、ここへきてエクストラスキルを出し惜しみなく使い、ゴブリンロードのターゲットは二人ばかり向いた。


 ジーンは盾戦士必須のエクストラスキル、ヘイトを使い自分にターゲットが向くよう仕向ける。

 ハーマンは溜め攻撃や二段突きなど、攻撃力の高いエクストラスキルを使い、ゴブリンロードのターゲットを奪う。


 まさに総攻撃だった。

 皆が魔法やスキルを駆使し、ダメージ優先で攻撃を続けた。


 そして、戦いは二度目の範囲攻撃が発動する前に、勝敗を決した。


「疾風突きぃぃぃぃっ!!」

 ハーマンの攻撃を受けると、ゴブリンロードがついに崩れ落ちた。


「はあ……、はあ……、やったのか?」

 夢中で戦っていたアルが、周りの様子をうかがう。


 倒れたゴブリンロードが消え始めると、

「ボクたちの勝利だぁーっ!!」

 ジーンが勝どきを上げた。


「よっしゃー!」

 皆が同時に勝利に吠えた。


「やったね!」

「はい!」

 レネオとシンシアがハイタッチを交わした。


「おつかれ、エリー」

「アルこそな」

 アルとエリーが拳をぶつけた。


「アル君、エリーちゃん、お疲れ様」

 ジーンとハーマンがアル達に近づいてきた。


「ジーンの兄ちゃん、おつかれ!」

 アルが答えた。


「アル君たち良くやってくれたね。おかげで初めてのボス戦で勝利することができたよ」

「何言ってんだ、ジーンの兄ちゃんたちが強かったからだぜ。とくに、ハーマンの兄ちゃんの疾風突きは凄かったな」


 アルは、いつの間にかハーマンの戦う姿に、尊敬の念を抱いていた。


「はは、あれね。ハーマンが勝手に名付けてて、実際には『溜め攻撃』と『二段突き』を一緒にやってるだけなんだよね」

「バ、バカ! ばらすな!」

 ハーマンが少し顔を赤くした。


「そうなのか? でもすげえのは変わりねえぜ」

「なんだ兄ちゃん。結構子供っぽいとこあるじゃん」

 アルがせっかくフォローしたが、エリーが追い打ちをかけた。


「なっ……」

 意外と女に優しいハーマンは、何も言い返さずグッと堪えた。


 それを見ていた皆が笑い出した。

 勝利と相まって、腹の底から笑った。



 それから、アル達は町に戻り、各パーティのリーダー三人は広場で戦利品の確認をしていた。


「今回はクエストじゃないからね。最初に言った通り冒険者ギルドに持っていかないのも一つの手だよ」

 ジーンが手に入れた戦利品を並べて言った。


 魔鉱石(ゴブリンロード) 三個

 魔鉱石(ホブゴブリン) 三個


「ゴブリンロードの魔鉱石が三つもあるのか?」

 アルがジーンに尋ねた。


「うん。ボスモンスターは普通のモンスターと違って、魔鉱石を複数落とすんだよね。ゴブリンロードは三個って決まってて、だから三パーティで挑むのが基本なのさ」

 ジーンが、ゴブリンロードとホブゴブリンの魔鉱石を一個ずつアルに渡した。


「え? いいのか?」

「もちろんだよ。三等分ね。一生に一度しか戦えない相手なんだから、平等にしないと」

 ジーンが笑顔で言った。


「そうか、わりいな」

 アルは素直に魔鉱石をそれぞれ受け取った。


「ゴブリンロードは分かりやすいが、もっと高レベルのボスになると、魔鉱石以外の希少アイテムも落とすらしいぜ。そのせいで分配で揉めることもあるって話だ」

 ハーマンがアルに言った。


「なるほど」

 アルの知らない、冒険者目線の情報だ。


「と言っても、ボクらもボス戦は初めてだったから、これをどうするか迷ってるけどね。アイテムに交換したら貰えるのは一人だけになっちゃうし、お金なら分けられるけど、それはもったいないし」

 ジーンが悩んだ表情で言った。


 学園卒のパーティは、学園時代から続いているパーティが多く、その後もずっと続けるのがほとんどで、誰がもらったとしてもパーティの利益には変わりなかった。

 そのため強力な魔法具に変えることが一般的だ。


 しかし関係の浅いメンバー構成のパーティの場合、分配時に揉めることが多く、特に希少なアイテムが出たときは、パーティ解散の要因になることがしばしば起こっていた。


「ま、どうするかは皆で考えてみるよ。ジーンの兄ちゃんもハーマンの兄ちゃんも、誘ってくれてありがとな。すげえ楽しかった!」

 アルは二人に礼を言った。


「こちらこそ。ボクらはこれでウォルテミスダンジョンを一旦卒業するけど、レベル12のアル君たちは続けるでしょ?」

「そうだな、まだホブゴブリンやオークがちょうどいい気がするし。兄ちゃん達はどうすんだ?」


「ウォルテミスダンジョンの次は、ウォルテミスの町中に入口がある『試練の地下迷宮』か、南門から行く『アンテワーム大洞窟』が一般的だな。俺たちは大洞窟の予定だ」

 ハーマンが答えた。


「『試練の地下迷宮』と『アンテワーム大洞窟』か……、覚えておくよ!」


「じゃあアル君、これでお別れだ。元気でね」

 ジーンがアルに握手を求め手を差し出した。


「ああ、それじゃまたな。兄ちゃん達も元気で!」

 アルはジーンの手を握り返す。


「アル、またいつかな」

「またどこかで」

 アルとハーマンも握手を交わした。


 アルは二人に手を振ると、レネオ達が待つ冒険者ギルドへ走っていった。

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