サトゥルネコは我が子を探す

晴れ時々雨

🐈

急いで交代を探さなければと猫は思った。そのために自分のテリトリーの外れまで来たが、その辺をうろつくような猫は見当たらない。猫が知る限り、この界隈には人間と同じ空間に寝床を持たないよそ猫はいない。みな人間に捕まってしまった。捕まるとどうなるかなど猫には知る由もなかったが本能のようなものが彼を戦かせた。人間の気持ちひとつで可愛がったり邪魔扱いしたりとは何とも不気味な話だ。しかし彼は自分も随分と不気味になったものだと卑屈に笑う。

猫は不意に迫り上がる腹の中身を道ばたに吐瀉するが吐き尽くしてもう唾しか出ず、よろめきながらまた歩き続ける。

生命を繋ぐ手段以上の何かで結びついた飼い主たちは、このままでは上手くいかなくなるのが目に見えていた。声の高い飼い主と声の低い飼い主はしょっちゅう諍いを起こし、その度どちらかが彼を抱きしめながらぶつぶつ言うのだ。暫く経つと猫は彼らの間に放され、二人はぐっと顔を寄せて舐め合う。何度その光景を見上げたことか。それは家の平穏を呼ぶ合図だった。

飼い主たちがすっかり寝静まる夜、猫は3つの心音に耳をすます。そのうちのひとつの音に濁りが混じるようになった。自分の心臓の音だった。猫の体は歳月と共に変化し、それは彼自身でも薄々気づいていた。

自分は飼い主たちより先に音が止まるかもしれない。心臓の、血液を運ばないところでそれを感じ取った猫は、この家から自分がいなくなった時のことを想像して焦った。

平穏の合図がなくなる一大事だ。

その夜から猫は秘密の通路から家を抜け出て深夜の町を徘徊するようになった。

早急に子を成すか後継者をあてがわなくては。あの場面を見届ける猫がいなくなれば二人の関係はすぐにでも破綻してしまう。猫は本当なら夜も寝ていたかったが、そう思えばこそだるい体でも歩き出すことができた。

しかし自由な猫たちが排除された町には彼の後釜になるような猫はおろか鼠の子一匹いやしない。

今日は月が暗いし花の香りがするのに底冷えがする。嗅いだことのない花の匂いが胃を刺激して猫は嘔吐く。かっぽんかっぽんと体をひっくり返すような嘔吐に身を任せ、猫は寝床で仲良くくるまっているだろう飼い主たちの規則正しい寝息を確かに聞いた。

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