第141話 カサン語大会 4
カサン語大会の行われるダナイの町は、南部最大の町アロンガ程ではないがスンバ村よりははるかに大きな町であった。川沿いにはずらりと家が立ち並び、その先も木々はまばらで、石を並べた道とたくさんの家が見えた。
「この辺で降りよう」
ナティは川にせり出した一軒の家の脚の下に、いかだごと潜り込んだ。そして家の脚を伝って陸に上がると、マルに手を伸ばし、彼が陸に上がるのを手伝った。二人は無事に陸の上に上がると、並んで歩き出した。
「ほら、見ろ! カサン語大会の事を書いた紙がどこもかしこも貼ってあるぜ!」
紙の下には矢印も描いてある。そして二人の視線の先にはばかでかい円形の建物が見えた。
円錐型の屋根の上にはカサン帝国旗が掲げられている。もう少し近付いてから、ナティは
「すげえ……」
と言ったまま溜息をもらした。きれいな服装の人達が次々会場の中に吸い込まれて行くのを見た瞬間、マルの脚が自然に止まった。
マルは慌てて身に着けたボロの中にいつもしまっている頭巾を取り出して顔を隠した。しかしそれでも前に足を踏み出す事が出来なかった。
「急ごう! 始まる前にテルミ達に会えたら励ましてやろう。あいつもびびってるかもしんねえから」
「ねえ、おら達の入口、どこだろう?」
「そこに見えるじゃねえか」
「そうじゃない。おら達の入口だよ。裏の方にあるんじゃないの? ロロおじさんとこのテントみたいに」
「そんなもん、ねえに決まってるだろ! カサン人はおら達も川向うの連中も区別しねえっなんてきれえ事、オモ・ヒサリがいつも言ってんの、お前聞いてねえのかよ!」
「それは分かってるよ。でもあそこから入ったら怒られちゃうかも……」
「怒られたからってどうだってんだ? あいつらがお前をつまみ出せるか? お前に触れることも出来ねえよ! 行くぞ!」
「でも……」
マルはグズグズと足踏みをしていた。
「やあ」
マルとナティが肩を叩かれて振り返ると、そこにはラドゥが立っていた。
「良かった。二人共もう来ねえかと思った。ナティの言うことは間違ってねえ。でもマルが不安なのも分かる。だからおら達は一緒に行きゃいいんだ。一人じゃ怖くてもみんなと一緒なら怖いことねえさ。ほら、みんなあそこに集まってる」
ラドゥは会場から少し離れた所に立っている椰子の木を指差した。そこにはヒサリ先生の教え子達が集まっていた。アディ、メメ、シャールーン、ミヌー、カッシ。
「ニジャイはやっぱり来てねえんだな。チッ、あいつは……やばいな」
ナティは言った。
「ねえ、見て、見て! あそこに立ってる赤い服の男の子! すごくおしゃれじゃない? 大会に出るのかしら!? あ、あの緑の服の子も素敵!」
ミヌーがいろんな子を指しながらはしゃいだ声を上げる。
「まったく、どこへ行ってもうるせえ女だな! マルよりもお前がつまみ出されねえか心配だよ。それからカッシ、お前のその水たばこは持って入れねえぜ。それからマルが背中にしょってるボロ楽器も」
「そうかなあ」
ナティに言われてマルが背中からスヴァリを下し、木の下に立てかけると、スヴァリは激しく抗議するようにポロロンポロロンと鳴り出した。
(スヴァリ、怒っちゃったよ)
マルはもう一度スヴァリを背負い、スヴァリも自分の身体も隠すように、しっかり簑を羽織った。
「さあ、行こう」
ラドゥが言った。
「入口で何か言われるかもしれねえ。でもおら達は一緒になれば強いんだ。絶対負けねえさ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます