第125話 人面獅子退治 4

「来るなって言っただろうが! まあどうせ来るだろうとは思ってたけどな!」

 マルは突然、肩を叩かれ、振り返った。ナティだった。

「ナティ、これからどうやってあの怪物をやっつけるの?」

「ほら、あそこにでかい盥が見えるだろう? あの中に酒が入ってる。あれを飲ませて奴が酔いつぶれた所を斧で一気に叩き切るのさ」

「でも出来るのかなあ、あの体、どこもかしこも堅そうだよ」

「そう見えるだろ。だけどな、妖獣にはたいがい体のどこかに柔らかい所があるもんだ……なあ、シャールーン、そうだろ?」

 ナティが振り返った先にはシャールーンが立っていた。

「シャールーンも来たの!」

 マルは驚いて声を上げた。シャールーンはいつもの通り黙ったまま、爪と牙で泥を撒き散らしている人面獅子に向かってじっと目を凝らしている。

「メメも来てるぜ。心強いなあ。こういう時はみんなで知恵を出し合わなきゃな!」

(メメも……)

 マルはメメがここに来るだろうという事は分かっていた。メメは、死者の体に集まる妖怪をやっつけるだけでは物足りないと思っている。臆病なマルにはよく分からないのだが、メメには常に、ハラハラする事や危険な事を求めているような所がある。人面獅子のような、大きくて恐ろしい妖獣を倒して人々の注目を浴びたいのだ。

 田んぼの間の木立の下には既に、十五、六人の妖怪ハンターや協力に来た妖人達が集まって作戦会議をしていた。マルはナティの後についてそっちに向かった。

「あの盥を人面獅子の横に置いとけば、いずれ喉が渇いて飲むんじゃない?」

 マルはナティに尋ねた。

「そううまくはいかねえさ。あの量で足りるかどうかも分からねえ。そもそも人面獅子は酒が好物ってわけでもねえからな。何とかうまいこと酒を飲むように仕向けるんだ」

「どうやるの?」

「そこが問題なんだよ!」

「その時、円になって語り合っている大人達の間からこんな声が聞こえてきた。

「こんな時ダニーが生きてたらな! あいつは度胸も知恵もあった」

「亭主の方はてんで臆病者だっていうのに。しかもあの亭主を守るためにダニーは死んだっていうじゃねえか! 亭主よりもダニーが生きてた方がよっぽど村のためだ!」 

 ナティは自分の父親に対する悪口を聞きながら、チッと舌打ちをした。

「親父、自分が来たらかえって足手まといだってことだけはちゃんと分かってるみてえだな」

「あのね……」

 マルはおずおずと口を開いた。

「おら、人面獅子と話してみようか? おらは妖怪の言葉が分かるから、多分人面獅子とも話が出来る。それに人面獅子に食べられることもない。イボイボのトゥラの物語ではね、人面獅子は『お前を食ったら体が腐って死ぬ』って言って、トゥラを食べなかったんだ」

「はあ~あ!?」

 ナティが呆れたように言った。

「何言ってんだよ! お前に出来るわけないだろっ! お前がその可愛らしい声で『人面獅子さん、お酒飲んで下さーい』って言ったところで、飲むわけねえんだよ! 奴を騙さなきゃならねえんだ!」

そしてナティが、怪物の方をじっと見据え、低い声で言った。

「俺がやるしかねえかな」



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