第122話 人面獅子退治 1
マルは川べりで本を読みながら、ナティが来るのを待っていた。
昨日、ナティからちょっぴり面白い事を聞かされたのだ。
「俺、バダルカタイ先生から妙な事言われたんだ。先生はどうも、仲間とアマン語の辞書を作ってるらしくて、俺に見に来ないかって言うんだよ」
「へえ、すごい!」
マルは「辞書作り」と聞いて思わず身を乗り出した。 マルもヒサリ先生からカサン語の辞書をもらって一冊持っている。読み始めるととても面白くていつまでも読みふけってしまう。同時にこんなにたくさんの言葉をどうやって集めるんだろう、と、マルは不思議でならなかった。
「お前には面白いだろうが、俺には別に興味ねえ。それにしても、なんでお前じゃなく俺なんだろうな?」
「だって、おらはこんなにイボイボで醜いから……きっとそこにはバダルカタイ先生だけじゃなく、他にも偉い人達がいるんでしょ」
「俺は納得いかねえ。それで先生に聞いたんだ。マルが一緒でもいいかって。だって辞書ならマルの方が絶対興味ある。そうだろ? そしたら先生、妙な事を言うんだ。お前が見た事聞いた事を誰にも、オモ先生にも言わない約束出来るならって」
それを聞いてマルは驚いた。辞書を作る事をなんでヒサリ先生の秘密にしなきゃいけないんだろう?
「でもなんで俺なんだろうな。ダビでもラドゥでもなくて」
「きっとナティが一番アマン語の作文が上手だから」
「何言ってんだよ。お前が一番に決まってるじゃねえか!」
しかしマルは、ナティがバダルカタイ先生に気に入られる理由は他にもあると思った。ナティは口が悪く、わざと人に嫌われるようにふるまうけど、自分のように体の不自由な者や老人には親切だ。バダルカタイ先生が躓きそうになったら素早く手を貸したり、重い荷物を持ってあげたりしているのだ。それも他の人が見ていない所で。
「ナティは優しいから」
「はあああ~!? 何だよそれ! 気持ち悪い! いいか、俺はなあ、産まれる時に、金玉と優しさをお袋の腹ん中に置き忘れたんだよ! 魚は内臓から腐るし人は優しい所から腐るんだ! とにかく、俺一人で行くなんて嫌なこった。偉い人達に『辞書なんて凄いですね!』とか何とかおべっか使う役はお前に任せた。とにかく一緒に来い!」
(変なの。優しいって言われて怒る人初めて見た……)
そうしてマルは、翌日ナティと合う約束をして別れたのだった。
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