第69話 踊り子シャールーンとミヌー 3
マルは、ナティと並んで歩きながら尋ねた。
「ねえ、ナティ、おらの髪、何色に見える?」
「黒だな」
「目の色は?」
「目の色? お前の目はイボで半分閉じてるからな。待てよ……」
ナティは立ち止まり、マルの顔をじっと覗き込んだ。
「やっぱり黒だな」
マルは安堵して、フーッと大きく息を吐いた。
「なんでそんな事聞くんだ?」
「おら、もしピッポニア人みたいな顔だったら嫌だなって思って」
「はあああ!? 何だそれ!? お前オモ先生の言う事、気にしてんのか!」
「そうじゃないけど」
「じゃあお前は母ちゃんのことも嫌いだっていうのか?」
「そうじゃない。母ちゃんは母ちゃんだよ」
「知ってるよ。お前はオモ先生に嫌われたくない。だからそんな事を気にするんだ。そうだろ!?」
「そんな……」
マルはいきなり図星を突かれ、何も言えないままただ口を開けたり閉じたりした。マルの足元で土の精がひょいと顔を出し、マルの足をクンクン嗅ぎ始めた。土の精はまるでシャベルのような鼻で地面を縦横無尽に掘って駆け回る。
「見ろよ。こいつはお前のイボだらけの足も嫌がらない。人が何色をしてるかとかイボがあるかどうかなんて気にしねえ。俺はたまに、人間より妖怪の方が偉いような気がするぜ」
「…………」
「ところで、今日オモ先生がちょっと面白い事言ってたじゃねえか。誰が相手だろうと相手の目を見て話せって。俺はずっと前からそうしてきたぜ。相手が平民様だろうが何だろうが下を向いて話したことないぜ。そのせいで散々えらい目にあってきたけどな。でもな、俺、オモ先生にまっすぐ目を見て喋れって言われたら、何だか違う事がしてみたくなるんだよな。ヘヘヘ」
「ねえ、なんでナティはそんなにオモ先生に嫌われるようなことばかりするの?」
「俺は偉そうにしてる奴は嫌いなんだ」
「でも先生だよ。それにナティはバダルカタイ先生にはそんなことしない」
ナティはそれには返事せず、そのままずんずん進んで行く。やがて振り返って言った。
「俺はこれからロロおじさんの見世物小屋に行くぜ! 一緒に行かねえか!?」
(ロロおじさんの見世物小屋!)
それを聞いたとたん、マルのふさいだ気持ちがほんの少し明るくなった。最後に行ったのはいつのことだろう? もう一年以上前だ。あれからいろんな事があった。母ちゃんは死んで兄ちゃんはいなくなり、ヒサリ先生から勉強を教わるようになって、無我夢中で一年を過ごしてきた。しかし今、ロロおじさんの見世物小屋と聞いたとたん、ああ、もうどうしても行きたい! という気持ちでウズウズしてきた。マルが真っ先に思い浮かべたのはいつも見世物小屋の横で薪を割っていた体の大きな女の子だ。
(シャールーンって言ったよなぁ。どうしてるかな。元気かな)
先を歩いていたナティはいつの間にか戻って来てマルの横に並んでいた。
「兄貴のサビルが吸血鬼と蛇女の決闘ショーをやるんだよ。俺、どうせサビルはうまく出来ねえと思し、心配だから見に行ってやるんだ」
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