第56話 バダルカタイ先生 11
不意に、扉の外から子どもの鋭い声が響いた。
「マル! マル! どこにいるんだよ!」
ナティだ! ヒサリが馬小屋の扉を開くと、ナティがそこに仁王立ちになって拳を握りしめている。
「マル!」
と叫んでヒサリの脇から馬小屋の中に飛び込んだ。
「マル! マル…お前、これからここで暮らすのかよ」
ナティの声は、どこか寂しそうだった。
「分かんない。でも、母ちゃんが死んじゃったから、おら、ここでいろいろ教えてもらわなきゃいけないんだ」
マルはきっぱりと言った。ナティはキュッと唇を噛んで下を向いたが、マルの決意を覆す事は出来ない、と観念したようだった。
「じゃあ俺も、マルやダビの野郎と一緒になんか教えてもらいたいって言えばここで教えてもらえるのか?」
思いがけない言葉だった。しかし好奇心の塊のような、キラキラした瞳を持ったこの子なら、さもありなん、とヒサリは思った。
「構いません」
ヒサリは答えた。
「けれどもここに来る限り、真面目に勉強に取り組んでもらいます。授業を妨害する事は許しません。それからやる気が無い態度でも困ります。授業について行けないようなら、ここに来る事は認めません。分かりましたね」
ナティは鼻にギュッと皺を寄せ、ケケケと笑った。
「へへっ、魔女の言葉を覚えろっていうのかい? それで病気をはやらせたり誰かを呪い殺したり出来るようになるってんなら願ったりかなったりだな!」
ヒサリが「それは違います!」と言おうとしたその時だった。
「ナティ!」
隣に立っていたマルが言った。何かを懇願するように。そして友の手を取った。
「分かった。お前が言うんならおとなしくするからっ! だけどなマル、この魔女に魂を奪われたりするんじゃねえぞ。それだけは絶対、絶対! 俺からの忠告だ! お前がそうならないように見張っといてやる。そのために俺はここに来るんだからな!」
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