第53話 バダルカタイ先生 8
翌日、ビンキャットが息子のニジャイを連れて学校にやって来た。ヒサリが彼に椅子に座るように言うと、トンニのようにためらうこともなく、あっさりとそこに座った。しかしそれから後がいけなかった。程なく、ヒサリは彼が全く呑み込みの悪い生徒であることを思い知らされることになった。彼は父親によく似た処世術のうまさや周りの人の顔色を伺うような所は受け継いでいたが、勉強に適した頭脳を持っていなかった。ヒサリが何か質問しても「分かりません」とはっきり言うこともなくニヤニヤ笑っている様子は不気味ですらあった。ダビ、トンニの勉強があまりにトントン拍子に進んだゆえに、急に調子を狂わされたように感じた。授業を終えて、初めてこれまで感じたことの無かった疲労を肩に感じつつ、ヒサリは自分に言い聞かせた。
(ダビやトンニが優秀過ぎたのよ。皆が皆こうはいかないわ。当然よ)
向上心の強いダビは明らかにニジャイを見下しているようで、言葉を交わすことなく授業が終わればさっさとトンニの手を取り帰って行く。取り残されたニジャイは別に傷付いた風ではなく、薄ら笑いを浮かべたまま本をしまい、一人帰途についた。扱いづらい子だ、とヒサリは思った。カサン人の中には、「アジェンナ人はあまり本音を露わにせず、いつも笑いを浮かべているのでかえって本音が分からず不気味だ」という人がいる。ヒサリは初めてその事を身を持って感じた。そしてそう感じる自分自身を憎んだ。
(私はこの国の子を嫌ったり軽蔑したりはするまい。誰もが立派なカサン帝国臣民になれるのよ……!)
しかし、ヒサリの胸は重かった。ニジャイのような子も含めてこの国の全てを愛することが出来るだろうか、との思いが雲のようにヒサリの胸を覆った。
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