第30話 物乞いの子マル 7
二人がマルの住む川べりの木の近くまで戻った時、ナティがマルに言った。
「おい……見ろよ……川が太陽を飲み込んでるみてえだ!」
「ほんとうだ。きれいだね」
マルはナティに答えて言った。
太陽は、昼間の強さは弱まり、優しい橙色の光を迫り来る夜闇に向かって放っていた。その様子は、一日の仕事を終えてこれから水浴しようとする女神の姿のようであった。マルとナティはいつしかその場に座り込み、太陽が空と水とを様々な色に変えながらどっぷりと沈んでいく様を見詰めていた。やがてナティが口を開いた。
「マル、お前にこれやる」
ナティはマルの手に、鎖の付いた緑色の石を押し込んだ。
「姉ちゃんにもらったけど、俺、いらねえから」
「でも、大事なもんなんでしょ?」
「いいんだってば!」
マルは、それ以上言い返すことが出来ないまま、渡された物を手にし困り果てていた。
「マル……お前、結婚したいって思うか?」
「結婚!?」
いきなりナティにそんな事を言われ、マルは驚いて目の周りのイボが痛くなる程瞬きした。
「でもおら、イボだらけでみっともねえから、誰もお嫁さんになってくれないよ」
「へっ! ていうことは、だ。誰かお前と結婚したいって言ったらお前は喜んで結婚するつもりなんだな!」
「よく分かんないよ……」
「結婚なんてつまんねえよ。姉ちゃんを見てりゃよく分かる。結婚なんかやめとけ。俺は一生しねえからな」
「うん……」
マルは沈みかけた夕日に照らされ燃えるようなナティの横顔を見ながら返事をした。結婚って本当にそんなにひどいものなのかなあ、と思いながら。それからマルは、薄暗くなった道を一人帰って行くナティの背中を、見えなくなるまで見詰めていた。
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