第28話 物乞いの子マル 5

 ロロおじさんのテントの船着き場にたどり着くと、ナティが岸に立っていた。マル達が戻るのを待ち構えていた様子だった。マルは筏から降りると、いそいそとナティの方に向かった。しかしナティの顔を見るやいなや、「ひこうき」の話をしようなんて気持ちは吹き飛んでしまっていた。ナティの顔は、なぜかいつもと違ってひどく険しかった。

「マル、俺はこれから姉ちゃんの嫁ぎ先に行く。お前も来い」

ナティはそう言って、クルリと向きを変えてずんずん歩き出した。

(お前も来い、なんて言われても…)

マルは正直気が重かった。ナティの姉ちゃんの嫁ぎ先は森の際地区で一番金持ちの靴職人アッサナック家だ。そこの末っ子のパンジャはいつもマルを見る度に「化け物! 化け物!」と言って石を投げてくるのだ。しかもそれは必ず、自分を守ってくれるナティがそばにいない時だった。しかしマルはこの事をナティに秘密にしていた。ナティがこの事を知ったら怒ってパンジャに何をするか分からない。マルはイボだらけの足でせっせとナティを追いながら言った。

「ナティ、姉ちゃんがどうかしたの?」

「もうじき赤ちゃんが生まれるんだ」

「へえ!」

「姉ちゃんがひどい目にあってやしないか心配なんだ」

「ひどい目?」

 ナティは立ち止まり、追いついたマルに、妖怪退治に行った地主様の家で見た一部始終を話した。

「地主様の家じゃ、子供をみごもった女には色々悪い妖怪がつくから汚らわしいっていうんで離れの小屋に入れられてるんだ。姉ちゃんもそんな目にあってたら、ただじゃすまねえ」

 「ただじゃすまねえ」、なんて物騒な事を言うなあ、とマルは思った。

「お産の時に憑く妖怪なら産婆のメームおばさんがやっつけてくれるから大丈夫だよ」

「そういう事言ってんじゃねえ!」

 ナティに叩き付けるように言われたマルは、そのまま黙ってナティについて歩いた。

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