第25話 物乞いの子マル 2

 女神様へのお参りを終えて次に三人が向かったのは、ロロおじさんのテントだった。

 ロロおじさんも物乞いだが、マルの一家のように歌物語で投げ銭をもらうのではなく、様々な妖怪を操って曲芸を見せる妖怪遣いだった。マル達と同郷だったが、村が「ダム」というとてつもなく大きな妖怪に飲み込まれた時、安全な場所に避難させていた曲芸用の妖怪がなぜかみんな病気にかかって死んでしまった。一文無しになったロロおじさんは飢えてマルの母ちゃん達から食べ物を恵んでもらう有様だった。しかしそんな苦しい生活の中で、おじさんはある時面白い商売を考えついた。それは、辻や市場で物乞いしたり門付けをしていた芸人達をみなテントの下に集めて、特に人気のある演目をいくつか並べたプログラムを組む、というやり方だった。やって来た客からはテントの入場料を取る。この新方式は大当たりだった。なんせ、客は強い陽射しを遮る涼しいテントの下で面白い出し物をいっぺんにいくつも見ることが出来るし、おまけに飴玉までもらえるのである。しかもこれまでばらばらに物乞いしていた芸人達が一つの場所に集まったお陰で、歌物語に人形芝居をくっつけたり、音楽の演奏に踊りを合わせたり出来るようになった。しかもロロおじさんは芸人達の格好にもこだわり、ボロを着ている者は脱がせて水浴させた上できれいな格好で人前に出させた。瞬く間に金持ちになったロロおじさんは、さらに新たな商売を思い付いた。それは市場に物乞いに行く芸人達への筏の貸し出しである。そしてマル達三人はこれからその筏を借りに行くのだ。


 ロロおじさんのテントの前では、体の大きな女の子が斧を振り上げ、カーンカーンと薪割りをしていた。マルが女の子の傍に置かれた木箱にお金を入れると、女の子は一言も喋らないまま筏を木に結び付けたロープを外すために川べりに下りて行った。マルは最近、この女の子が踊り子だということを知った。というのもマルがテントの裏に入れてもらってショーを見た時、踊り子たちの列の中に彼女の姿を見つけたからだ。しかし彼女は他の子のように華やかに着飾ってはおらず真っ黒な服を着ていて、他の子を抱え上げる役をしていた。そして彼女は、ショーに出ない時はたいがい薪割りか妖獣達の小屋の掃除をしていた。マルは女の子が話すのを聞いた事が無く、笑っているのを見たことが無かった。マル達が筏に乗り込んだその時、

「シャールーン! シャールーン!」

 という意地悪そうな年老いた女の人の声を聞いた。

(ジャイおばさんだ!)

女の子はそのままとトトトトトっと走って行ってテントの中に姿を消した。

(シャールーン……『月の光』かあ……きれいな名前)

 マルは、女の子がいつか晴れた日の月のように美しく笑うのを見てみたいと思った。

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