第22話 ヒサリ先生 6
二人の少年が去って行くのを見送りながら、ヒサリは感激に胸を震わせていた。アジェンナに関しては、ここに来る前に様々な本を読み、ある程度の知識を入れてきた。しかし、本で得た知識と現実に目にするものの間には大きな違いがあった。
この国には、国王を頂きに、貴族、士族、平民、と下ってゆく厳格な身分制度がある。さらに、その平民の下には、「人外の民」とされ蔑まれる「奴隷」や「妖人」といった人々がいる。しかしヒサリが実際目にする現実はそんな単純なものではなかった。まず、同じ平民どうし、妖人どうしの間の貧富の差の著しさは、ヒサリにとって予想外のものだった。またダビッドサム少年のように、妖人でも平民の貧しい小作人より良い身なりをしている者もいる一方で、ここに来る途中目にした真っ黒な子供達のように想像を絶する程貧しい生活をしている者もたくさんいる。もう一つは「妖人」と呼ばれる子らの意欲の高さである。カサン人の間で、アジェンナの民、特に南部のアマン人については「怠惰で享楽的。計画性が無く今夜より先のことを考えることが無い」と語られていた。ヒサリ自身もどこかそう信じていたところがある。しかし実際はどうだ! 早くも二人の子が、学びたいと自らやってきたではないか! それから……。ヒサリはここに来る途中で出会った、マルーチャイというイボだらけの子に思いを馳せていた。
(あんなに夢中になって本を見ていたんだもの。何とかあの子にもカサン語の読み書きを教えてやれないものかしら。人の嫌がる病気を持ってる子だけども……)
ヒサリは、物思いにふけっているうちに次第に頭の中がボーっとしてきた。常夏のこの国で、今は特に暑い季節である。ヒサリは健康そのものの若い肉体を持っていたが、カサン本国とのあまりの気候の落差にいまだ体が慣れていなかった。ヒサリは椅子の背にもたれかかったまま、やるべき仕事に手を付ける気になれず、まるで歌っているかのような珍しい鳥の鳴き声にしばし耳を傾けていた。
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