第14話 妖怪ハンターの子ナティ 6


 ナティはハンモックの中で体の向きを変えながら悶々としていた。その日は村に市の立つ日だった。市の立つ日には、マルは早朝から母ちゃんや兄ちゃんについて物乞いに出掛けてしまって木の根っこの家にいないのだ。ナティはぼろ家の壁の隙間から差し込む光に顔が焼かれるままにボーッとしていたその時だった。ナティの顔にすぐ上のサビル兄ちゃんのガラクタみたいな声が降り注いだのは。

「おい、父ちゃんが仕事に行くぞ!」

 ナティは飛び起きた。そしてすぐさま自分の竹やりと吹き矢を手に取った。そしてナティの両側の小さなハンモックで寝ている双子のちびを起こした。双子は小さすぎて妖怪退治に行けない。かといって二人だけで留守番は出来ないから、産婆のメームおばさんに預けに行くのだ。ナティは双子のちびを追い立てた。

 ナティは走ってサビル兄ちゃんに追いついた。うんと先には、父ちゃんと、最近結婚して家を出たブーマ兄ちゃんの背中も見える。ナティは臆病な父ちゃんだけじゃなく働き者のブーマ兄ちゃんが一緒なのを見て小躍りしそうになった。

「今日は大物やっつけるんだろ! そうだろ!? 父ちゃんだけじゃやっつけられないような! だってブーマ兄ちゃんいるからな! 」

「違う。地主様の家に妖怪よけをこしらえに行くんだ」

「なーんだ! そんならわざわざブーマ兄ちゃんが行かなくたっていいじゃないか」

「バカだなお前! 地主様の家で仕事するんだ。丁寧にやんなきゃいけないんだよ! 父ちゃんは酒飲んでて何するか分かんねえから、兄ちゃんがついて行くんじゃないか」

 サビル兄ちゃんが言った。無口なブーマ兄ちゃんに比べ、サビル兄ちゃんはいちいち癪に障るような言い方をする。

 ナティは大物をやっつけられないのかと思ってがっかりしたが、歩いていくうちに地主様ってのがどんな顔でどんな様子をしているのか見るのが楽しみになってきた。

(よしっ! 戻ったらマルにいろいろ話してやるぞ……!)

 橋を渡り切ってその先へ先へとずんずん歩いた。せっかく石畳の立派な道があるってのに、父ちゃんと兄ちゃん達はそこを歩かせてくれない。「我々妖人が通っちゃいけない道だ」なんて言う。

(……へっ! 平民様とすれ違って怒られるのが怖いってのかい? 全く気が小せえんだから、父ちゃんも兄ちゃんも!)

 さらにどんどん進んで行く。周囲の田んぼでは、かがみこんで田植えをする農民たちの姿が見えた。一人の小さな子供が、ナティ達の姿を見て

「あー!!」

 と声を上げた。父ちゃんやブーマ兄ちゃんが体じゅうに入れている魔除けの刺青が珍しいのだろう。ナティは子供に向かって口を尖らせて変な顔をして見せた。子供は声を立てて笑ったが、すぐに、そばにいる少し大きい子が小さい子を叩き、

「見るな!」

 と言った。ナティは、しばらく二人の子供を見つめていた。しかし子供達は二度とナティの方を向かなかった。ナティは父ちゃんや兄ちゃん達がうんと先に行っているのに気付き、慌てて駆け出した。


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