第12話 妖怪ハンターの子ナティ 4

 それからナティはイボだらけの子を誘い出し、川べりで遊んだ。ナティが太い木によじのぼり、川に飛び込んで見せると子供は

「おーう」

と歓声を上げ、木の幹を叩いて喜んだ。ナティが水面に向かって石を飛ばすと、イボイボの子は足先で水を跳ね散らかしてはしゃいだ。

やがてナティは、この子が「マル」という名前で、しばらく前に母親と兄さんと一緒に、ここから少し西の方の村からこのスンバ村に移って来たということを知った。マル達がもともと住んでいた村は「ダム」というどでかい妖怪にひと飲みにされたのだという。ナティは驚いた。自分もいろんな妖怪を見てきたけれども、村を飲み込む程の大きな妖怪は見たことも聞いたこともない。ナティが「ダム」のことをいろいろ尋ねると、マルは

「おら、よく分かんない。一番おっきい兄ちゃん、ダムにつかまったんだって。それで逃げたんだけど、死んじゃったって」

と言って、怖そうにブルッと小さな体を震わせた。しかしナティにはそんな妖怪の存在がどうしても信じられなかった。

一日が終わる頃には、ナティはマルのことがすっかり好きになっていた。

それから来る日も来る日もナティはマルのところに遊びに出掛けた。とはいえ、ナティの父ちゃんが妖怪退治に行く時はその手伝いに行くため、それが終わった後になった。ナティの父ちゃんは酒と賭博に溺れ、あんまり仕事をしないけど、それでも四、五日に一度は仕事に出掛ける。「森の際」地区の子は誰でも、ナティ位の年になると父ちゃんや母ちゃんについて仕事を覚える。ナティは早く一人前の妖怪ハンターになりたかったから、父ちゃんが重い腰を上げて仕事に向かう時は必ずついて行った。出来れば毎日でも行きたい位だった。そしてその日目にした悪い妖怪の事をマルに話してやるのが楽しくて仕方なかった。

 ナティは今、マルと自分が出会ってからこれまでの事を思い返しつつ木の下に寝そべり、オレンジ色の世界に沈んだ水田やその先の川、さらにその向こうの、自分達の住んでいる「森の際」地区をぼんやりと眺めていた。

「俺、日が沈みかけてる今が一日の中で一番好きだな」

ナティの口からふとそんな言葉が漏れた。

「なんで?」

「うーん、世界じゅうどこもかしこもみんな同じ色になるってのがいい」

「ふーん」

 マルは少しの間黙った後、

「おらも好きだ」

 と言った。それから二人は長いこと世界中が燃えているかのような夕焼けを見詰めていた。やがてマルが

「ねえ、そろそろうちに帰らない? おら、母ちゃんに新しい歌物語を教わるんだ」

「そうだな」

 ナティはそう言って立ち上がった。ナティにはナティの仕事があるように、マルにはマルのやらなきゃいけない仕事がある。

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