エピローグ1:転生《てんしょう》

ドサッ





俺は目を覚ました。どうやら受肉は成功したようだ。


息ができる。

空気を吸い、吐き出す。この刺激、懐かしい。ここは、地球だろうか? それに類する星であることは間違いない。


あたり一面には広野と森が広がっている。

気温は約24度。生命活動に適した気温だ。


右手、左手、右足、左足、全身をくまなく見る。

人間の男。この髪色、毛色、おそらく地球であればアジア地域に生息するタイプだ。

意識もはっきりしている。



だが、長大なあの時間の記憶はどんどん薄れていくのを感じた。

仕方がない。脳の容量を完全にオーバーする知識だったのだ。

この肉体に適する程度まで、記憶は欠落していくことだろう。だが、構わない。

そういう約束だったのだから。


間違いなく神性は俺の一部となった。故に、この体に死は訪れない。



俺は…… 俺の名前は……




何だったろうか。


あまりに長く語っていたため、自分が何者であるかという情報はとうに失ってしまっていた。これは不便だ。


そういえば、<神>との対話で一つだけ明かされなかった謎があった。


あれは確か…… 確か。



「タチバナアキラ」



それが何だったかよくわからないが、まあいいだろう。

俺の名前は「タチバナアキラ」にしよう。



どこに向かおうか。どこでもいい。

時間は飽きるほどあるのだ。



いずれまた、あの方に出会う、その時まで。



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