第33話 輪廻
あれから、五百年は経っただろうか。俺は彼女と対話し続けた。今や数学、天文、物理、生物、化学、地学、医学、歴史、文学、宗教学、哲学……ありとあらゆる知識が私の中にあった。その時間は替えがたい程優雅で知的で、優しさに満ち溢れたものだった。とうに無くなった五感の刺激は思い出せなくなっていた。
俺と彼女はいつしか意識の隔たりすら超越し、空間を満たす広大な一つの意識になった。そして、彼女がこんな状態で、限りなく無限に近い時間を過ごしてきたことを共有した。
自分とは、彼女とは一体どういう存在なのだろうか。僅かに残った
──それはね、いわば区分け。世界の認識を隔てる壁。はるか昔、君が恐怖に
君の世界は、君の意識の中にしかない。そして私の世界は、私の意識の中にしかない。君の身体が、君の心が認識したものだけが、君の世界に存在する。私の身体が、私の心が認識したものだけが、私の世界に存在する。自分以外の存在を認めることが、私と君を分ける。認めるから存在するのか、存在するから認めることができるのか、それはわからない。
私ではない何かが、私を認識することで私が生まれた可能性がある。私が何かを認識したから、私が生まれた可能性がある。無論、ただ偶然に生まれた可能性もある。面白いだろう、世界とは?
俺は
十分に楽しむことができた。そろそろ生まれ変わってみようか?
そう聞くと彼女は笑ったように感じた。
君はあの時からここまで予想していたのかい? だとしたらそれはとてつもないことだね。神を転がすなんてなかなかできることじゃないよ。
この神は嘘ばかりつくが、憎めない神だ。だから俺は、笑ったような顔をしてみせた。
━━それでは、生まれ変わってみようか。私たちの記憶はなくなるし自我も消える。時代はいつにしよう、未来か、過去か。……だが君には私の神性の一部が分有されることになる。これほど長い間語り合ってしまったのだから、それはもはや仕方の無いことだ。
そして、次の
次の君の生に幸多からんことを──
……八千年の未来と過去で、また会おう。
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