特別戦闘列車武蔵

 この戦闘列車は6両での編成となっており一両目には主砲1門と機関銃が3門積まれている、またレーダーや観測機械も積まれており、戦闘指揮所としての役割を持つ。2両目は機関車となっている。3両目と4両目は生活基盤が集約された寝台車兼弾薬庫、5両目と6両目は3インチ対空砲が貨物列車の台車のようなものに無理やり1基ずつ積んだ魔改造となっている。

 

 3週間の慣らし訓練を終えて明日の14時頃に未知路線へ入る。現在は未知路線手前の基地、親父がいた基地だ。

 朝は3両目の執務室の横にある小さな部屋を半分以上を占拠するベッドで目を覚ます。

10時ころに指揮所に全員が集合し朝礼を行う。明日からは朝と夕方に早番と遅番に分けて朝礼を行うことになる。


 前線基地出発の日の朝。俺は一つ話をする事にした。

「六甲國に帰ったら美味い飯を全員に奢ろう。もし魔術国家に入ったら美味い飯を奢らせよう。嫌々徴兵されて来た者がほとんどだろうが、実は偉そうに指揮してる俺もその1人だ」

 小さなざわめきが起きる。

「山にも海にもかかってる霧が晴れる頃、俺たちは六甲國を生まれて初めて出る事になる。暗い気持ちを払拭し線路の先にある世界に期待と興奮を持とうじゃないか。俺たちは生きて情報を持ち帰るという任務がある。が、我々を弾圧するような国のために命を懸ける必要はないと思う。なので生きて帰ろう。解散」

 そう言って朝礼台の上から降りた。横一列に整列していたメンバーはバラバラに散り好きな方向へ歩いていった。

 次の集合は武蔵の4両目にある食堂で打ち合わせをしてから出発となる。




 ミーティングも終わり、俺は1両目の指揮者の椅子に座った。運転台は自分から右側の見える位置にあり、そこからと天井の見張り窓からの光が薄暗い車内にさしていた。


「進行方向異常なし!」

先頭の見張り台からの無線が入る。

「敵無し、周辺空域、地域共にストレンジャー無し!」

レーダー担当からも報告を受ける。この確認手順を持って初めて発進の命令を下す。

「出発進行!!」


 そう叫ぶと運転台からのカコンという音が聞こえ徐々に車体が加速を始める。

 炉心からの唸るような低音が車内を満たし、徐々に体が加速になじみ始める。

 


 2時間ほどで境界線付近まで来ることができた、昔の戦闘列車より速度が出るためかなり時間は短縮されている。

「境界線見えました!」

後頭部より若干上の方向から報告を受ける。

各自、防毒マスクを装着せよ。と指示を出す。

「狭間の空間」は魔力を帯びていない物質を溶かすと言う性質上、万が一体が溶ける場合を避けるためにマスクを装着することになっている。

 俺の座る指揮席には速度計や燃料計など共に空間の魔力を帯びていない物質を溶かすレベル(以後、酸性レベルと呼称する)を測るメーターがあり、その酸性レベル0〜5に分けられている。そして、隊員にもそれぞれ耐性レベルが振り分けられていて0〜5で低耐久から高耐久となっている。

 耐性0の者が酸性レベル5の空間でマスクなしに呼吸しようものなら5分で肺に障害を負うことになる。この列車のメンバーは全員、耐性のレベルが5なので安心ではあるが決して気を緩めてはいけない。

 境界線に近づくにつれ酸性レベルのメーターが1に近づき始めた。


 俺は目の前に広がるメーター類、位置観測器から送られてくる座標やレーダーを凝視していた。

 「境界線超えました」

 運転士である姫嶋の報告を受けて2秒後にはGPSが使えなくなった。体が地下深くへ潜っていく感覚に陥る、それなのに空は青く澄み渡っている。酸性レベルのメーターは2を指している。

 「観測を開始、GPSは使えませんが問題ありません」観測班の報告を受ける。

  

事は順調に運んでいるとこの頃の俺は考えていた。しかし、未知路線は始まってすらいなかった。そのことに気づくのは24時間後のことだったのだ。

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新島鉄道 KO=李 @komotoreimei

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