チーキ・ブリーキの精神

 訓練学校の卒業式を終え、自分のベッドへ戻った。明日にはチームの組み合わせと乗り込む列車、出兵地域の発表が行われる。校内はそんな発表を待つ卒業生のどこかぎこちなくどこか希望のかおる雰囲気に包まれていた。

「先輩はどこに出兵したいですか」

 そんなことを聞いてきたのはだだっ広い食堂に200以上並べられた椅子と長机の中からわざわざ俺の前を選び座ってパンとスープを丁寧にゆっくりと食す姫嶋だ。

「南部がいいな」

「一番安全ですものねー」

「そして楽だ!これに尽きる」

「楽できる間に戦争終わってくれると良いんですけどね」

「あれは全部、六甲國側が悪い。魔神を何十人と実験とかの道具として使うなんて。未だに六甲國が存在できてる理由がわからない」

「確か六甲國がダイヤモンドの産出国でお金をたくさん持ってるからなんとかなっているんでしたっけ」

「あくまで敵に回したのは魔術世界で人間世界じゃないからな。魔術世界の領域をうまく潜り抜けて貿易すれば金とか武器も手に入るんだろな」

 六甲國は世界有数のダイヤモンドと石油の産出国で船や飛行機を使い六甲國大陸の外にある魔術世界をうまく掻い潜り魔術世界を超えたところにある人間世界と貿易を行なっていた。なぜ魔術世界に極端に近いはずの六甲國の人間だけが魔術を使えないのかは未だに原因がわかっていない。

 この問題を解決するために行われた計画が「混血計画」と呼ばれるものである。人工的に魔術の使える血液を持った人間を生み出して奴隷に近しい存在(主に兵役が多い)として利用しようとする計画である。

「ただ混血、どうも寿命が短いんだよな。俺の父親も結構若く死んだし」

「確かあれってある年齢になると遺伝子に刻まれた自壊プログラムが働いて体が一気に老けるって聞いたことあります」

「それって混血の血を引く俺らも持ってるのかな」


「それはないんじゃない?」


 そう言いながら、ギトギトした木目の机の上にアルミ製の食事の乗ったトレーを置き、俺の横の席を取ったのは能登だった。

「自壊プログラムは遺伝しないらしいよ」

「ほんとかー?」俺は疑う声で言った。

「王立医療大学の先生が言ってたし間違いないと思う」

 そう言いながら能登はスープを口に運ぶ。

「新島くんのお父さんって混血なの?」

「そうだよ、両親共混血」

「たしかNo.666だっけ」

 !!!確かに父の首には666と彫られていた。でも確か本当はNo.66らしい。

「悪魔みたいに喧嘩が強かったらしいじゃん」

「結構詳しいんだな」

「そりゃ有名だからねぇ。王に隷従させられてた魔神を助けた戒陽姫の息子なんかは更に有名だよ」

「あー、それは親父も聞いた事があるな。「俺が人生で2度人に頭を下げたうち1度目は一三にさげた」ってよく言っていたよ」

「2度目は誰に下げたんですか?」話について来れていなかった姫嶋が口を開いた。

「うちの母親にプロポーズした時だ」

「ロマンチックですね〜」

「俺の親父、キザなところあったからな」

 どこか心が寂しい気持ちになった。父親の死の悲しみはとうに乗り越えたはずだったのに。


 3日後〜

「いよいよですね!先輩」

 そう、遂にきてしまったのだ。これからの人生を決定付ける任務の内容が発表される瞬間が。

 発表の内容は看板に張り出される。看板に張り出される紙には自分の名前の横「所属する部隊、出征地域、乗り込む列車の名前が順に書かれている。手元には番号ごとの内容が書いてある冊子があった。

 10時のチャイムと共に紙が看板に貼られる。看板を囲むようにドーナツのように固まった人達は自分の発表内容を見て歓喜したり嘆いたりしている。

 「先輩!私の所属部隊の25ってなんですか!配られた紙に書いてません?」

「25は……特務部隊って書いてるな」

「なんですかそれ!?」

 俺の名前の横にも所属部隊の欄は25(特務部隊)、出征地域も25(秘匿)、乗り込む列車は17(新型戦闘列車武蔵)とある。

「なんか嫌な予感しかしないなぁ〜」

「でもよかったじゃないですか!私達、同じチームですよ!」

「私も25だよ〜」そう言って後ろから近づいてきたのは能登だった。

「みんな25かよ!!!」俺はついつっこんだ。

 姫嶋はどこか喜びの中に濁りがある顔をしていた。

「25番があったものは17:30に第4講義室に集合するように」

 教官の濃い声でアナウンスがかかった。


 集められた場所は第四講義室、大学の広い講義室に似た感じで整然と机が並べられており横10m縦1.5mくらいの黒板がある。

 集められたメンバーを見渡すと15人ほどいた。男5人それ以外は女という訳の分からない配分をされている。

「普通こんなハーレムみたいな組み方するかよ……」

 教官が左のドアから入ってきて登壇した。

「お前らがこのようなチームの組み方をされたのには理由がある。それはお前らが純度の濃い混血、いわば悪魔でも魔人でも魔神でもない新しい魔術種族であるためだ」

「教官!質問よろしでしょうか!」

 左の席に座っていたクソ真面目そうなメガネをかけた坊主の男が右手を上げた。

「なんだ」

「混血である事とこのチームの組み方、何の関係があるのでしょうか!」

「うむ、それはお前らが乗り込む列車である新型戦闘列車にも関係がある。あの列車は実は未知路線を研究するために作られた列車で、魔力の使えない人間及び魔力を帯びていない物質を溶かすという未知路線のある空間が持つ特性に耐えるために設計されている」

「それは……実質、越境部隊ということでしょうか」青ざめた顔で坊主が質問した。

「違うな。越境部隊は言わば決死部隊という面があった。しかし、お前らは生きて帰ってきて未知路線の情報を持って帰ってこなければならない。そのための武蔵だ」

 教官が言うには武蔵という戦闘列車の概要と我々の任務の内容はこうだ。越境部隊編成打ち切りから5年、未知路線が一人歩きでその線路を増殖させていることがわかった。その増殖した線路のルートを確認してこいというものだ。武蔵は無尽蔵のエネルギー製造機である炉心が積まれており、機械が生きている限り無限に走り続けられる。また、未知路線がある空間をこの世と魔神世界の(狭間の空間)と設定し、狭間の空間内における魔力を帯びていない物質が融解する現象に耐えうるために武蔵には魔力を含んだ塗料でコーティングされており、狭間の空間内で活動するために魔力を多く持つ俺たちが選抜されたと言うことだ。普通の人間があの空間で呼吸すれば肺が溶けるが俺達なら溶けないらしい。

「魔神世界と魔術世界は別々の世界にあるのかぁ〜」

「魔術世界と人間世界は一つの世界にあるのに不思議ですね、先輩」

 打ち合わせが終わった後、解散させられ新型列車の訓練期間が3週間設けられた事を知らされた。3週間で六甲國内の様々な場所を走って、あらゆる地形での走行方法や戦闘方法を身につけ列車内での生活に馴染めという。

 しかも列車長(戦闘列車内での最高権力者)は俺だ。

「タバコの本数が増えそうだ……」

 車両基地では整然と並べられ明日の出発に向けて準備が行われている戦闘列車を夕焼けが赤く染めていた。

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