適性検査
招集場所は第5市街軍部総合訓練学校だった。ここで適性検査の結果でそれぞれの訓練課程を選び、そこで2か月訓練した後に戦場へ送られる。
「先輩待ちましたー?」
人混みの中から駆け寄ってきたのは姫嶋、同じ高校の後輩で混血の両親を持つ。
「15分くらい待った」
「いやー寒い中すみませんね先輩」
「10月と言っても第五市街は冷えるな」
「第五市街、結構北側ですもんねー」
「それにしても結構、売店とかあるなあ」
訓練学校だが放課後は自由行動が許されており、ここの生徒を相手とした店も多くあった。また、学校内も売店等が多くあり結構自由そうだ。
「ですよね。そういえば先輩はなにしたいですか?」
「おれは戦闘機パイロットがいいな。退役したら航空貿易線のパイロットしたいね」
「私は貨物列車の機関士がいいですね。憧れだったんですよ」
「姫嶋は機械の操作とか得意だったからいけるだろ」
しばらく歩いていると受付場所まで来た。それぞれの出身地区の場所に並ぶらしい。
「結構、女の子でも徴兵されてるの多いな」
「ですよね。これじゃ高校と大して変わらないですね。先輩、彼女でも作ったらどうです?」
「死ぬのが惜しくなりそうだからいやだよ」
「私は先輩には死んでほしくないですよ?」
「馬鹿……。恥ずかしくなるようなこと平気で言うなよ」
「なら死んでください」屈託のない笑顔。
「お前が死ねよ。あ、タバコ吸ってくるわ。これ俺のも受け付けといて」
そういうと俺は姫嶋に自分の召集令状と身分証を手渡した。
「まだ辞めてなかったんすね」
「タバコ吸うの我慢してまで健康になる気はないよ」
無事、入校式や諸手続き、健康診断も終了した。今日の予定は適性検査だけだ。
「さあ、いまから適性検査をこの装置で行います。呼ばれたらこの装置の中に入るように」
目の前には高さ2.5メートル、横1.5メートルほどの金属板の箱のようなものが体育館の端から端まで並べられていた。箱の横にはプリンターのようなものが備え付けられており検査結果が印刷される仕組みらしい。
15分ほどして姫嶋が呼ばれて箱の中に入っていった。シャッターを切るような音が聞こえ紙を持った姫嶋がこちらへ向かってきた。
「適性どうだった?」
「適性は機関士で出ましたよ!」
嬉々とした表情で紙をこちらに見せてきた。
紙を見ると確かに「機関士適性B」とかいてある。B以上で希望する訓練課程を受けられる。
「新島鉄雄689番、こちらへ」
検査官の呼ぶ声が聞こえた。
「それじゃあ行ってくるわ」
「パイロット適性出るといいですね」
姫嶋はニンマリとした顔で手を小さく振った。
箱の中に入って扉を閉じると360度白い空間だった。ほとんど影はなく白い壁がほんのり発光している。シャッターの音と同時に部屋が見えないほど光る。
部屋を出ると検査官に結果の紙を渡された。どれどれ。
「機関士適性C-。パイロット適性B-」おいおい散々だな。
「指揮官適性A+」指揮官か。ほかにもB以上の適性はあったが自分にとって魅力があるものがない。
「指揮官ですか、先輩」
「しかもA+だ。あの機械壊れてるんじゃないか?」
「なら歩兵にしたらどうですか?」
「訓練がきつそうだからいやだよ」
「なら指揮官しかないですね」
「まあな。死ぬ確率としてはやり方次第じゃ1番低いし、ラッキーだと思うよ」
「なんか先輩が指揮官ってムカつきますね」
「逆らう奴はぶん殴る」
「うわぁ、前時代的すぎて引く」
まるで苦いものを食べたような顔で姫嶋が言った。
振り分けられた寝室に行った。第4宿舎5階の12号室か。
部屋のドアを開けると教室くらいの空間に二段ベッドとロッカーだけしかない。まだ、誰も入っていないらしくどこにも荷物が置かれていなかった。
「まあ、まだ3時だしなぁ……」
とりあえず決められたロッカーにカバンとコートを掛けて散歩することにした。姫嶋の宿舎は女子寮で男子禁制だ。食堂が開くまであと2時間はある。どこに行こう……
訓練学校士官過程での生活は朝は8時から夜の20時まで90分の授業と15分の休憩が続く。15分以上の休憩は昼休みの1時間のみ、この間にも次の授業の準備をするので12時間ほとんど勉強漬けになっていた。授業は週6で行われている。これが一か月続き、次の一か月は他の課程の学生とチームになり実践的な経験を積む訓練が行われた。
「君も一週間後ここ(訓練学校)卒業なんだって~?」
行きつけの校舎の2階の端にある教室をくり抜いたような購買にタバコを買いに行くと話しかけてきたのは学校の中にある購買の店員である。綺麗な白髪の赤い目をした混血だ。(混血は瞳が赤い)訓練学校内の購買は訓練学校生協が担っているがそこでアルバイトをしているこの女は確か先鋭課程主席だった記憶がある。
「能登も一週間後卒業じゃなかったか?」
「そうだよ~。チーム一緒になれたらいいね!(卒業後同じ戦闘列車にのる班のこと)」
「先鋭課程の主席が一緒だと心強いな」
「そういう君も訓戦(訓練戦闘)ではトップクラスの指揮官らしいね、主砲台車切り離しってのは思い切りがあるよ」
「精度と威力は悪くないがなにせ重いからな、置いて行った方が撤退が捗るだろ」
「死んでも戦うことが大切だって思い込みがつよい人がほとんどだから、そういう発想に至るってのはチームからしたら邪道じゃない?」そう言われてみればこの判断をした時チームから「死ぬまで戦わずして何が兵士か!」と叫んできた野郎がいた。
「そういうもんか、戦争で死ぬなんてゴメンだよ」
「そう言うもんさ、君は仲間が危険地帯で行方不明になったら捜索する?それとも置いていく?」
「もちろん即刻置いていく。もし、無線とか有れば話が変わるかどう何も無いなら死んだ事を前提に行動するな」
「冷たさも持ってるわけだ」
「取捨選択だよ。先鋭部隊なら習うだろ」
「救える可能性があるなら救いたい自分の性格とは合わないなぁ」
「戦術的な面では間違いかもだけど、そういう姿勢は尊敬するよ。ただ一緒になった時には絶対にやるなよ」
「先輩!」
姫嶋が緑の廊下の向こうから走ってきた。座学らしく、白い制服を着ている。走る風で姫嶋の黒い髪が靡く。
「あ、能登さん」
「やあ、姫ちゃん」
2人が軽く会釈する。
「先輩、ナンパっすか?」
「ちげぇよ。戦場での考え方を討論してただけだ」
「いやぁ、熱烈な口説きだったよ〜」
ニンマリと能登が笑う。
「口説いてねぇだろ、いつものくれよ。ヤニカスはニコチンが切れると頭回らないんだから」
「相変わらずのニコ中っぷりだねぇ」
「先輩、いい加減辞めないと戦場で苦労しますよ」
「人はな、辛い時こそ嗜好品がいるんだ。ほら160円な」
「そりゃそうだ。まいどー」
能登がタバコを机にしていたガラスのショーケースから一個取り出し俺に手渡す。アルミのフィルムを剥がし一本口に咥え喫煙所に向かった。
出発は卒業した後、順次行われる。
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