第三面(ウラ) 鏡の中の世界へ

葉水は地面に突っ伏しながら足元の物体(なにか)に目線を向ける。

そこにあったものは、結界糸でもなく、木の枝でもない。

「だ、誰かの…足だ。」


良く見てみるとそれは、横たわった雪落高校の男子学生のものだった。

既に気を失っていて、ピクリとも動かない。

しかし、その学生の傍らに手のひらサイズの何かが落ちている。

それは、オレンジ色のクリアケースに液体が入っていて、先端に金属のカバーと小さな歯車のようなモノがついている、非常に「ヤンキー的」な物だった。

「あれは…!」

その物体に気づいた時、とある発想が葉水の脳裏をよぎった。

しかしそれと同時に、背後からあの男の声がした。

「おっとと、縛り忘れてた学生(ガキ)がいたか…まあ、今コイツと一緒に封印してやりゃいいか…覚悟しな。」


声の方向にうつ伏せのまま振り向くと、向こう側の茂みにいた男はもう葉水が倒れている位置から、3メートルの距離まで近付いており、新しい結界糸を張り巡らせていた。

咄嗟に自分のズボンのポケットに手を入れ、スマートフォンを取り出そうとしたが、見当たらない。同様に、手首に着けていたお守りも無くなってしまっている。


転倒した際に落としてしまったたのか、仲間に助けを求めることも出来ない。

「くそ…やるしか無いのか…」

葉水は何とか先程のオレンジ色の物体に手を伸ばし、それを力強く右手で掴んだ。

そして、おもむろに立ち上がり、周囲に張られた結界糸をわざと自らの腕に巻き付かせた。

するとその瞬間。葉水の脳内に数多の、少年少女の力無い呻き声や叫び声が響いた。


(助けて… 誰か居ないの…

ここか ら 出してく れ… 苦 しい…

暗くて何も 見えない…

怖い…)


「うっ…!!やっぱり…この前夜の学校で感じた物と全く一緒だ…!!でも、分かるぞ…これは糸(ここ)に閉じ込められて苦しんでる人達の声だ…!!」

「…だったら助けないと!!」

するすると腕に巻き付いていく何十本もの結界糸に向かって、葉水は手に握っていた物体を下から垂直に立て、小さな金属部品を思いきり親指で弾いた。

「…ライター!?馬鹿か、そんなもんで…」

すると、手元から赤黒い巨大な炎がゆらゆらと立ち上がった。


その炎は葉水自身には燃え広がらず、瞬時に結界糸から他の結界糸へと伝達していった。

「これは…上手くいったのか!?」

薄暗い不気味な公園だった空間は、みるみるうちに灼熱地獄へと変貌していた。

「お前、こりゃ『呪い』の類じゃねぇか…!!「糸」が見える時点で変だと思ったがよ…まだまだ若いが、呪術使いだったとはな。」


結界師の男は深いため息をついて、懐から結び目のついた紐を取り出した。

「ここまで台無しにされちゃ、一旦引くしか…て言うか、もー止めにするか。あのジジイに大して情はねーし。」

「何を言ってるんだ…」

「ん、あー降参だよ降参。もう結界は解いてやる。結界糸が燃やされたら、結界が維持できなくなるしな。」

「結界、って…待てよ。何だったんだ、この空間は。何が目的なんだ。」

「あ?目的…は最初に話しただろ?俺は雇われ結界術師。知り合いのジジイに雇われて、人の魂を集める空間を作ったんだよ。それ使ってどーするかは詳しく聞いてねーけど。」

「何なんだ…それ…」

葉水は突飛な話についていけず、茫然とした。

「うーん、どうしても気になるならそのジジイに直接聞いてみるか?九蕗笹神社ってとこの住職だから。」

「くろ、さ…神社?あっ」

気が付くと、葉水は「入口」に戻って来ていた。

木と木の間にくくりつけられていた鏡はいつの間にか無くなっていて、御守りやスマートフォンはしっかり手に握られていた。


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すのーどろっぷ新聞部「雪落高校の謎に迫る」!! toropoteto @toropoteto

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